九章
モロクが陥落して朱狼たち傭兵団と残存討伐軍は首都への帰路に着いていた
負傷者も多かったが一次撤退していた魔軍が再びモロクに向けて進行し始めたのだ、一刻も早く離れる必要があった
「朱狼、どうだ?」
後ろから一人の男に尋ねられたことに朱狼は嫌な顔せず答えた
「あまり長く持ちませんね、トラップも出来る限り仕掛けましたが余り役には立っていません」
朱狼が言うトラップとはブービートラップのことであるが・・・詳しい説明は省略する
「そうか、なら俺らが殿を務める」
「頼む、やばくなったら撤退してくれ」
「当然」
そういい男は朱狼より離れ後方へと移動した
「・・・・頼みますよ、フォンロン」
朱狼の眼に悲しみと不安の影があった
「アオイ」
戻ってきたフォンロンはアオイを呼んだ
「どうしました?」
「負傷兵をすべて前に運べ、俺たちは殿を務める」
「了解」
アオイは敬礼したあとすぐに行動に移った
アオイに任せておけばこの件は大丈夫だろう
あとは・・・
「町、来てくれ」
「はい?」
町はいつのまにかフォンロンの傍に居た
「うぉ!?いつから?!」
「アオイさんが呼ばれた時からですよ?」
「そ・・そうか(汗)」
気配を感じない町に驚きつつも冷静になり
「町、皆を連れて朱狼たちの所へ行け」
「イヤデス」
「すまんが、邪魔だ」
「イヤ」
町がここまで頑なに拒否するのは珍しいほうだ
「町・・・」
「狼、無茶しようとしてるでしょ?」
狼・・俺と町だけで話すときの俺の呼び名である・・・古い名前ではあるが
「俺は死なない」
「知ってる、でも怪我することが多い」
「・・・・」
事実なので言い返せない
「指揮はシェルフェさんに任せる、私は狼と共にいる」
「町、それは駄目だ」
「拒否します♪」
「はぁー」
俺は脱力しながら町の宣言を無視できなかった
町は普段は周りのことを良く考え行動するが一度決めたことはほとんど曲げない、そういう子なのだ
だから、惚れたのかもしれないが
「だが、町・・・死ぬなよ?」
「狼こそ・・・」
「ん・・・・」
「ん・・・」
俺と町は軽くキスを済ませたあと
「町、これを持ってな」
「これは?」
俺が渡した袋を受け取りつつ聞いてきた
「町が必要な物・・・かな?」
「フェンクリップ?」
フェンクリップ・・・・・攻撃魔法・支援魔法を詠唱する時、邪魔が入れば術は発動せず失敗してします。これはそれを防ぐ装備だ
「昔仕入れた品だ、使いな」
「ありがとう♪」
町が微笑んでお礼を言ってきた
「(これを見れただけでも良かったな・・・3Mはしたけどw)」
フォンロンがなにを考えていたかは・・・後は省略します
現在、モロク派遣討伐軍残存兵と傭兵団は首都まであと100キロほどにまで迫っていた
あと40キロも行けば前線基地がありそこには20万のプロンテラ正規軍が待機している
だが、そこに着く前に彼らに魔の手が迫っていた
「隊長!後方より敵接近中!」
警戒していた部下の一人が近づいてくる黒い影を視界に捉えた
「ちっ・・・構うな!目標地点まであと12キロ、そこまでは無視しろ!」
「「「「了解!」」」」
フォンロンの命令に部下は異論を出さず承諾した
フォンロンの作戦はおいおい説明するが、12キロ程行った場所に断崖絶壁の道幅の狭い道があるのだ。そこを今回利用する
「隊長!敵がどんどん近づいてきています」
「チッ・・・敵は・・・ヤバイな・・・足の速いゴブリン族が」
ゴブリン・・・・・・人間よりも二周りほど小さい魔物で様々な武器を巧みに使う人間臭いモンスターだ、今回追ってきているゴブリンは皆武器が剣・・・つまり最速のゴブリンである
「急げ、あと少しだ!」
「隊長!俺たちが少し食い止めます、隊長たちは先に!」
「馬鹿が、死にたいのか!」
アオイが自身を囮にしフォンロンの作戦成功率を高めようとしたがフォンロンは悩まずに拒否した
フォンロンは仲間を囮にしてまで助かろうとは露ほどにも思っていない
「だけどこのままじゃ!」
「・・・・」
その時、ゴブリンの手前に巨大な雷が落下した
フォンロンたちは走りながらもその雷の正体を知っていた
ロード オブ バーミリオン 風系魔法最上級クラスの威力を誇る魔法である
「朱狼め・・・味な置き土産を残しておいてくれる・・・」
その魔法を放った者の素性を大体特定出来たフォンロンは誰にも悟られることなく苦笑いした
雷の落下により一旦止まったゴブリン族ではあるがすぐに追撃を再開した
フォンロンたちはなんとか目的地に辿り着き、朱狼に頼んで置いてもらっていた資材を部下と一緒にあるものを作り出した
「50センチ間隔で地面に突き刺せ!それが終わったらその隙間から突き出るように突き刺せ!」
フォンロンの作戦はこうだ
まず一番狭いポイントで直径20センチほどの丸太を地面に突き刺し、それに丸い長い棒を横に結びつけ即席の壁を作りだす
そして丸太と棒の隙間から突き出るように竹を地面に突き刺し牽制の材料とした
「弓隊3列陣形!1番手、引き付けろ 2番手構え! 3番手、2番手が打ったら場所を交代し射撃体勢で待機!」
3列に並べた狩人部隊を配置し壁の前に待機させていた槍歩兵隊の後ろに配置する
槍隊は壁の決壊阻止と壁の乗り越えの阻止である
「隊長!敵が来ます、数はおよそ500!」
「よし、射撃用意!」
その言葉に狩人部隊の面々は矢を引く力を強め待った・・・・
敵が壁まであと200と迫った時
「二番手、遠めに・・・はなてぇ!」
フォンロンの合図とほぼ同時に二列目が弓を少し上に向け矢を放った
集中的に放たれた矢は雨のように落下し数多くのゴブリン族の命を奪った
それでも彼らは追撃速度を緩めない
「一番隊、近めに・・・はなてぇ!」
槍隊の面々の頭と頭の間を縫うように放たれた矢は敵前衛集団に向かって一直線に放たれた
「一、二、三番隊は順次矢を放て、槍隊!敵を突破させるな!」
「「「「「「了解!」」」」」」」
巧みな攻守によってなんとか攻勢に転じているフォンロンたちであるが
「!敵後方より増援確認!数は200、あ!敵はレイドです!」
「レイドだと?!グラストヘイムを護衛する魔兵がなんでこんな場所に!」
レイドは闇を好む こんな太陽の日差しが強く光属性が強い場所に現れることなど稀といえる
「隊長!レイドを守るように周りに闇の瘴気が発生しています!」
「闇の瘴気!?」
闇の瘴気・・・主にレイドなど闇属性モンスターが好む場はすべてこの闇の瘴気が漂っている、しかし・・・
「くそ、バリスタを出せ!奴らをなぎ払う!」
「しかし!調整がまだ出来てません!」
「かまわん!敵の足を止めればいい」
「りょ・・了解!」
フォンロンの怒声に少し脅えながらも部下たちは布を巻いていたバリスタを引っ張り出してきた
「隊長、一発が限度です・・・おそらく次はありません」
「かまわん、前衛兵のみを残して残りは退却準備、守護区域まで退却できればいい」
守護区域・・・首都を中心とした聖属性で加護された区域にことでほとんどの魔物は魔の衝動がなくなり大人しくなることが確認されている
「わかりました、急がせます」
「頼む」
そういい兵士は駆け足で離れ部隊長たちに連絡を伝えまわった
「・・・・チッ・・・・負け戦か」
つづく
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