二十章
華音が目論んだエタニア国の制圧は、強靭なる精鋭軍団の前に潰えたかに見える。

しかし、華音は未だすべての力を見せているわけではない。

だが、今は祝うとしようこの勝利の報を………。





魔争戦記

二十章



エタニアは喜びに包まれていた。
あの華音帝国の巨大な軍事力の前に、エタニアは堂々と勝負を挑み勝利をもぎ取ったのだ。
城門よりガルシャウラ軍団の兵士が現国王 相沢 雄二を筆頭に堂々と整列し城へ向かい歩いてゆく。
その後を倉田兵団の兵士が軍団長 倉田 誠也を筆頭に整列し城へと向かっている。
ガルシャウラ軍団と華音より亡命してきた倉田兵団を、エタニア国民は快く迎え城に凱旋する時は駆け付け祝った。
エタニア国民の心に触れ、倉田兵団の兵士達は心底喜んだ。
城に到着した倉田兵団はそこで家族と再会し、再び喜び抱きしめあった。

しかし、この凱旋パレードに祐一率いる近衛軍団の姿は未だなかった。







彼らは、まだライネリア城にいた。
先の大戦の折、華音第二侵攻軍総司令官と総参謀長以下捕虜を捕縛した為だ。
一般兵などは、すべてライネリア城付近に用意された仮設収容所に収監した。
しかし、総司令官と総参謀長の処遇がまだであった。

「さて、捕虜の引見を行う」

「はっ、両名をここへ」

祐一は、敵に姿を見せる時用の特殊な鎧に身を包み顔を面で覆い王座に座り、そう発言したことで捕虜引見が始まった。

「華音第二侵攻軍の総司令官と総参謀長を連れてまいりました」

「ご苦労、下がれ」

「はっ」

二人を連れてきた兵は部屋を退室した。

「さて、両名ともそこに座れ」

「……」

「……」

「座れ」

二人は答えなかったが、祐一の二度目の命令に渋々従い用意された椅子に腰掛けた。

「さて、両名がここに連れてこられた意味がわかるかな?」

「……」

「我らを辱める為ですか?」

久瀬は沈黙を通し、天野が聞いてきた。

「その程度の事に価値はない」

「では、何故?」

「君達二人を我がエタニアに迎えたいからだ」

「つまり、華音と手を切れと?」

「そうだ、俺は君らの力を惜しいと思う」

「異な事を……我ら華音とエタニアは宿敵同士、まして魔を認めるエタニアを華音は許すわけにはいきません」

「些細な事に何故華音は、その事を重視する?この世界は誰の物でもない……生きとし生ける者全てのモノだ」

「「………」」

二人は祐一の言葉に息を呑んだ。
祐一は静かに二人を見据え、周りの幕僚達も静かにその成り行きを見守っている。

「……一つだけ貴方にお聞きしたいことがあります」

「なんだ?」

「華音をどうなさるおつもりですか」

「「「「!」」」」

天野の確信を突く発言に、幕僚達は息を呑む。

「俺は別に華音という国にも土地にも興味はない、用があるのは王のみ」

「秋子女王を殺すおつもりか?」

「当然だ、あの者がこの度の戦争の元凶なのだ……あれがいる限り華音との争いはなくならない」

「……」

天野も祐一の意見に賛成であった。
何故、魔族と言うだけで忌み争わなければならないのか……?
たしかに、襲ってくる魔族は恐ろしい力を持っている。
でも、その中には感情もあり争いを嫌う者もいる。
それに極稀に襲ってくる魔族よりも人間の方が遥かに恐ろしい。
天野はそれを知っているのだ。

久瀬は沈黙を守りつつ、天野と同じような事を考えていた。

「………処分は後日に回し、両名はそのまま監視下に置いておく」

「師団長」

「わかっている、両名は後ほど私の私室に来るように内密に話しがある」

「それは危険です!」

「かまわん、時間が空いたら呼ぶ……それまで下がれ」

「「はい……」」

数名の兵に連れられ、両名は部屋を後にした。
両名が完全に退室するのを確認した祐一は面を外し、口を開いた。

「で、情報は?」

「はい、現在までにわかっている事ですが」

「構わない」

「はっ、ONE派遣軍ですが……戦略図を」

「「「「はっ!」」」」

両脇に控えていた術士が、術を組み中央にその力を集める。
その術は特殊な改良を施されており、必要な情報を示す事が出来る。(現代で言う大画面MAPのような物と考えて欲しい)

「当初は、我がエタニアと華音の戦闘地域に向かっておりましたが、我がエタニアが華音に勝利したと知りコースを変更しました」

戦況図に別の線が加わった。

「ここに当初、陣を築き対策を練っておりましたが急遽陣を引き払い、華音領へと向かいました」

「ふむ、どうみる?」

「一つに戦力増強の為とも見えます」

「あるいは華音に呼ばれたと見るか」

「もしくはなにか策があると見るべきだろうな」

「では、我らの当面の行動は?」

「ふむ、杉並」

「はっ、ここに」

「現段階で動かせる人数は?」

「最大で四十五名です」

「では四十名を華音に向かって放て、残り五名をONE領に派遣しろ」

「内容は?」

「意図だ」

「承知」

そう言って杉並の気配は消える。

「軍はどうします?」

「現在の状況は?」

「はい、およそ三十万が即時行動可能です」

「ふむ、では十五万を再編成し純一に率いてもらおう」

「え!?俺??」

「そうだ、音夢とことりをつける」

「いや……しかし」

「やれ」

「いや、だからね……あの〜」

「やれ」

「………はい」

純一はなんとか回避しようとしたが、祐一の有無を言わさない命令に渋々承諾した。

「次だ、経済の方はどうなっている?」

「今回の戦闘による需要などで向上気味ですが、長期に渡って戦争が続けば低迷すると思われます」

「そうか、了解した。次に……『失礼します!!』何事だ?」

突如、扉を慌しく開け一人の兵が入ってきた。

「申し訳ありません、師団長」

「報告は迅速にあげろと厳命している、必要だから急いできたのであろう?」

「はい、報告します」

「読め」

「はっ、本日未明にエアー王国がFate皇国に宣戦を布告し、侵攻開始しました」

「ほう?遂にエアーが動いたか」

エタニアと華音第二侵攻軍の戦いが終了して間もなく、長らく沈黙していたエアー王国が領土拡大を求めFate皇国に攻め入ったのだ。
この情報は既に祐一の耳に入っており、その動向には逐次目を光らせていた。

「規模は正規軍三十万を持ってFete皇国に侵攻、東の砦をことごとく占領しています。しかし、Fate皇国は一切戦闘をせず戦略的撤退を行っている模様です」

「そうか、Fateはなにか申してきているのか?」

「援軍の要請をしてきております」

「援軍ねぇ……いいだろう、ルース閣下」

「なんだね?祐一よ」

「暴れたりないでしょう?」

「いいのか?」

「ええ、無駄に戦火を広げる輩に手加減など無用ですよ」

「華音もそれと同類ではないのかね?」

「華音は女王一人の思惑が大きい、クラナドとは多少違いますよ」

「そうか、では我らが赴くとしよう」

「物資は逐次そちらに向かわせます、存分に……移動は、軍港に待機させてある軍艦をお使いください」

「感謝する」

ルースは礼を言い、部下と共に部屋をあとにした。

「よろしいのですか?祐一様」

「いいさ、彼らも今回の戦で不満が貯まっているはずだろう」

「やり過ぎなければよいのですが」

「ルース閣下は好戦的だが冷静な一面もある、だからこそ援軍の総司令としてこちらに派遣されたのだからな」

「わかりました、出過ぎた事を申しまして申し訳ございません」

「よい、ではこれにて会議を終了する。各自持ち場に戻り己の責務を果たせ」

「「「「「すべてはエタニアの為に」」」」」

これにて会議は終了し、祐一達は解散した。








つづく