十九章
ONE派遣軍にもたらされた華音第二侵攻軍の総司令官・総参謀長が捕まったと言う報。

なぜ捕まったのか?

護衛はなにをしていたのか?

それはここに記される。



魔争戦記

十九章




「杉並様、彼らと連絡取れました」

杉並の元に部下の一人が駆け寄り、小さく報告した。

「で、彼らはなんと?」

「あと数分の後に動くとの事です」

「そうか、味方はほぼ全て総司令官と総参謀長の元へ配置出来た」

「解りました、では合図と共に……」

「そうだ、お前も配置に戻れ」

「はい」

部下は頷くと静かに配置へと戻って行った。

「さぁあと僅か」

杉並は静かに呟き、時を待った。






「閣下、敵が目標のポイントを通過します!」

「よし、兵士達よ!時は来たぞ、幕を開け!」

「「「「「おぉぉぉお!!!」」」」」

魔物達は、持っていた松明を紐に近づけ火を付ける。
その紐には火薬が塗されており、バチバチと勢い良く燃え広がる。
その先にある箱に向かって一直線に………。

それは仕掛けられた特殊爆弾である。

盛大な爆発音が響いた。

その爆弾は確実に山に影響を与えた。














「なんですかこの音は!」

天野は、突如響いた爆発音の後に続く音に周りを見回す。

「天野司令、あれを!」

久瀬はある一点を指差し、天野を呼んだ。
天野はその先を見た。そこは……。

「な?!土砂崩れ!!」

それは土砂崩れであった。
あの爆弾は確実に山に影響を与え、人為的に山崩れを発生させた。

「総員!退避!!土砂崩れが起きる!!」

「司令、間に合いません!!」

杉並はそう言いつつ、天野に飛びつき馬から無理やり下ろし土砂の流れてこない場所に連れて行っ

た。
それを配下の兵たちも続く……半数以上すり変わっていても……




「来たな、土砂が治まった後我らの勝利は決まる」

杉並は右手を剣に添え、天野達が走っていく方について行く。

「合図は?」

「私が出す、それまで待機だ」

「はっ、各兵にも厳命しておきます」

そう言って部下は離れた。





土砂崩れが治まり、徐々に土煙も晴れてくる。

「な!」

天野は目を見開いた。

「前後を分断された!……まずい」

「閣下、あの森から……!!な!!」

近くにある森に向かおうと言おうとしたが、その視線の先には……。

「火計!」

「いけません、このままでは……」

「なら近くにある川に、あそこなら大軍は動かせませんがこのくらいの数なら……」

そう言って天野は自軍の兵を見た。

その数は数百。

「急ぎましょう」

「えぇ」

「そうは問屋が卸しませんよ?」

「な!」

「何者だ!!」

「敵さ!」

そう言って杉並は天野を捕まえ、喉元に剣を添える。

「さぁ、総司令官は俺の手の中にある!武器を捨ててもらおう!」

「貴様一人になにが出来る!」

「一人じゃないのさ」

「なんだ「ぐぁ!!」!!」

突如、悲鳴が響き文句を言っていた兵士は辺りを見回す。

そこには……。

「貴様ら叛乱か!」

華音の鎧を着た兵士達が味方の兵を刺し殺していた。

「彼らは我らの仲間さ」

彼らは両腕に黒い紐を巻き、華音兵に襲い掛かった。

「くそ、生き残った兵は総司令を救え!」

久瀬はまだ残っている兵にそう命令し、自らも剣を抜く。

「おっと、あんたにも用があるんでね」

そう言って部下数名が取り囲み、武器を奪い首筋に衝撃を与え意識を奪う。

「よし、敵の総司令と総参謀長の身柄は押さえた引くぞ!」

「はっ!」

「逃がすな!追え!!」

杉並達はすぐさま両名を担ぎ、退却し始める。

「追え!追えーーー!!」

華音兵はすぐさま追撃に移るが、そうは簡単に事はいかなかった。

「追わせるな!蹴散らせーーー!!」

そう魔界派遣軍が襲い掛かったのだ。

「な!魔物!!」

「敵を一匹たりとも逃がすな!すべて捕まえろ!!」

魔界派遣軍は軍を三つに分け、分断された華音軍に襲い掛かった。

前方に分断された華音軍には、魔界派遣軍中佐であり天狼族の空牙。

後方に分断された華音軍には、魔界派遣軍少佐でありエルフ族のフュール。

そして中央の華音軍には、魔界派遣軍総司令にして大将であるルースがそれぞれ襲い掛かった。

しかし、質が良くとも圧倒的物量を誇る華音軍はすぐさま体制を建て直し迎撃にあたるが、魔界軍

に名を馳せる名将達の前に敗走を余儀なくされていた。

杉並達はさほど抵抗を受けぬ内に脱出に成功し、エタニアへと戻ることが出来た。

魔界軍は程ほど戦った後、数多くの華音兵を捕らえエタニアへと帰還した。





これが華音追撃戦で起こった総司令・総参謀長捕縛の状況である。







「しかし、更にまずいことになりましたね……」

「まさか、両名がエタニアに捕縛される事になるとは」

「しかも魔界の派遣軍ですと?今更ながらエタニアを敵に回す事の恐ろしさを実感させられますな



この幕僚の言葉はこの場にいる全ての者の気持ちでもあった。
魔界に暮らす魔物達は数多の魔法を使い、並外れた怪力や知力などを兼揃え人間など簡単に倒すこ

とが出来るのだ。
人間界に存在する魔物の殆どは著しく力を落としていると聞くが、それでいてもその力には目を見

張るものがある。

「長森様、いかがなさいます?」

「ほぼ無傷と言っていいほどのエタニア軍数十万と魔界派遣軍が合流したとなれば、我がONE派

遣軍は元より華音が集おうとも所詮は烏合の衆。精鋭と名高いエタニア軍や魔界派遣軍と戦うなど

正気の沙汰ではございませぬぞ?」

「わかってる、でもここで戻れば私達は反逆罪に問われて死刑になるのは目に見えています」

「───ですが」

「ここは一度華音へ向かうべきと思います」

「華音本国へ?しかし、我が軍が行ったところで絶対的差は埋まりませぬぞ?」

「華音の切り札と言われるあれを出して貰いましょう」

「それは……あれでございますか?」

「そうです、華音の技術力全てを注いで完成させたと言うそれを使えば勝機は見えます」

「しかし、あれはどんなものか長森様もご存知のはずですよ?」

「わかっています、あんな禁忌の塊のようなものを使うことは躊躇いますが、必要ならなんでも使

うが我が国のポリシーです」

「……わかりました、すぐに準備を始めます」

そう言い、幕僚達は不満を抑えながらも敬礼し退室した。


「私達はもう天に昇ることは出来そうにありませんね………」

長森は誰もいなくなったテントの中でそう呟いた。






つづく