十八章
脅威の技術を持ったエタニア国。

それを甘く見ていた華音帝国。

未だ合流出来ずにいるONE連合国。

そして……ある国も虎視眈々と機会を伺っていた。





魔争戦記


十八章




華音が撤退を開始しようとしている時、ONE連合国は未だ進軍の途中であった。

「あと十三時間程で予定合流ポイントに到着予定です」

「了解した、このまま進軍を続けろ」

「はっ!」

折原は部下の報告を聞き、そのまま進軍するように伝えた。

「折原師団長?」

「なんだ長森副師団長?」

今まで静かに付いて来た長森が折原に声をかけてきた。

「さっき、情報部の兵から連絡が届いたんだけど……」

「どうした?」

「華音が攻撃を仕掛けているそうよ」

「なんだって?俺達と合流してから攻撃開始のはずだろう?」

「理由はわからないけど、もしかしたら女王よりの勅命で始めたのかもしれません」

「なるほど、俺達より先に始めてエタニア占領の一番を取る気か」

「でも、それだけかな?」

「さぁな、俺達ではあの女王の心の内はわかんないさ」

「そうだね……で、どうするの?」

「進行速度を八時間ほど速めるとして、合流ポイントを後方へと下げよう」

「なら場所はここに?」

長森が馬に付けていた鞄から一枚の地図を取り出し、その場所を指差す。
そこは、エタニアと華音が会戦した場所より華音よりの五十キロの地点……華音領の国境付近にある丘である。

「そこの丘なら補給も出来やすく、周囲を囲まれるヘマをすることもないな」

「そうだね、でも油断しないほうがいいよ?相手はあのエタニアの不動鬼神と呼ばれた相沢 祐一がいるんだよ?」

「わかってる、油断しないさ……慎重に慎重をきす、それが生き残る方法だね」

「うん」

それからONE連合国派遣軍は、進路後方に変更して新たに予定したポイントに向かった。
五時間ほど掛かって小高い丘に到着した。

「急いで陣を張れ!周りに柵を組み、偵察兵を出せ!」

折原は号令を飛ばし、長森は参謀などと会議をしていた。

「現在の状況は?」

「はい、現在までに入っている情報ですが……思わしくありません」

「やばいですか?」

「はい、エタニア国と華音帝国との戦は既に終わっており……華音帝国は敗走しました」

「総司令官と総参謀長は?」

「現在までに所在は掴めておりません……撤退している華音帝国軍はバラバラで、追走しているエタニア軍は推定数十万いると思われます」

「総司令と総参謀長の所在不明?」

「はい、華音兵の主だったものは各個バラバラに敗走しており、統制は失っております」

「………華音帝国の司令官がいないのであれば……呼んだ所で無駄になりますね」

「はい、統率を欠いた兵はただの的でしかありません」

「……幹部は?」

「今のとこ接触は……」

「副師団長!」

「どうしたんですか?」

一人の兵士が会議をしている天幕へと入ってきた。

「はっ新たな情報が届きました」

そう言って一つの書状を長森に渡した。

「………な!」

「どうかなされましたか?」

幕僚の一人が心配そうに聞いてくる。

「これを見てください」

そう言って先程の書状をその幕僚に渡す。

「な!!」

「どうした?」

「おいおいこりゃ……」

「まさか……」

「総司令官と総参謀長がエタニアに捕まったと……?」

「はい、それにはそう書かれています」

「しかし何故?護衛などもちゃんと付いていたはずなのに」

「わかりません……」

長森達が不思議に思うのも無理はなかった。
それは二時間ほど前まで遡る。












撤退を開始した華音軍ではあったが、その撤退は困難を極めた。
当初、エタニア軍近衛軍団の槍隊と衝突していた兵士達は撤退出来ず、本営が撤退を開始したと知り降伏した。
華音第三軍団機動歩兵隊二十万
エタニア軍近衛軍団預槍隊十万
双方十六万の死傷者を出したが、エタニアの勝利に終わった。
そのままエタニア槍隊は華音第三機動歩兵隊を取り囲み、武器を回収し監視下に置いた。
そして、未だ動いていなかった二十万を追撃部隊とし、四百の部隊に分け各個に追撃を開始させた。
残りの兵士は、戦場に散らばるエタニア・華音双方の死体の処理に回った。
戦場に散らばる死体をそのまま放置すれば疫病などの原因になりやすく、早めに回収し処理しなければならなかった。
エタニア兵は全て回収され、名前を控え武器を回収し火葬した。
華音兵は名前はわからない為、武器と毛髪を取り同じく火葬した。

「いつ見ても、これだけは慣れないし慣れたくないな」

「………」

祐一は火葬される兵を見つつそう呟き、すずは静かに両手を合わせ黙祷した。





その頃、敗走を続ける華音軍は……

「準備はいいか?」

「はい、全て変わる事に成功しました。隊長の一言で行動できます」

「わかった、この先に細い一本道になる大軍は運用出来ずに細くなるしかない」

「そこで中核にいる総司令と総参謀長を分断するんですね?」

「そうだ、そこに前もって祐一様より十万の将兵を借りてある」

「十万ですか?しかし……そんな兵力ありましたか?」

「……魔界の援軍さ」

杉並は静かに笑い、時を静かに待った。












「閣下、敵が通過します」

華音軍が撤退する時、必ず通る細い道……そこを見下ろす場所に魔界から派遣された援軍十万が待機していた。
彼らの任務は敵の分断と撹乱である。
人間は出来るだけ無力化し、捕らえよと厳命されていた。

「そうか、まったく相沢と言い杉並と言い……未来を知っているかのようだな」

「そうですね、我らが到着したと同時に秘密裏にこの場所に派遣し準備をさせるとは」

「少々つまらんが、これも戦争だ」

「はい、魔界では戦争とも呼べない規模ですが」

「そう言うな、ケル」

「贅沢はいいませんよ、ルース閣下」

「我ら魔界では既に戦争は起こっておらんからな、こういう機会でもなければ動けぬ」

「閣下、敵が通過し始めました」

別の兵がそう告げ、ルースは腰をあげ見下ろす。

「敵総司令と総参謀長を見つけよ」

「はっ」

ルースの命令に数名の兵が散り、他の兵は目を凝らし総司令と総参謀長を探す。
だが、程なくして両名を見つけた。

「閣下、見つけました」

「どこだ?」

「あそこです」

兵士が、華音軍の隊列の一箇所を指差す。
ルースはその場所を向き、目を凝らして見る。
すると、厳重にガードされているが二人の男女がいた。

「あれだな、目標がポイントに到達するのがあと……五分程か」

「こちらの準備は整っています、あとは閣下の一声で」

「よし、兵はすべて待機せよ」

「はっ!」

ルースの命により、兵士すべてが息を殺しながら待機した。

「さぁ杉並よ、君はどう行動するのかな?」

ルースは静かに笑い、時を静かに待った。









つづく