十七章
さぁ踊るがいい、血と怨嗟に塗れた戦場を舞台に兵士は踊るがいい

観客は未来の歴史家達よ

さぁ主演は、舞台に上がる兵士達

さぁさぁ踊れ踊れ、惨めに散るがいい






魔争戦記

十七章






そして準備が出来たと時を同じくし、再び自分達の上空を砲弾が飛び去って行った。
砲弾は、第三軍団機動歩兵隊の真中に落下し爆発した。
その威力は凄まじく、数千もの兵士が一瞬にして吹っ飛んだのだ。

「ふむ、新型爆裂弾は意外と使えるな」

杉並は戦場を見ながら、素早く記録していく。

「さて、我が主達は……」



『槍隊!前進せよ!!』

祐一の激が飛ぶ。
それを受けた槍隊十万は、槍を構えたまま歩き始めた。
一歩一歩確実に歩き始める。
油断も隙もないように確実に……。

「純一・音夢、騎馬隊二万を預ける。敵の後背をつけ」

「了解しました」

「了解!」

純一と音夢は敬礼し、馬を走らせ騎馬隊の元へと向かった。

「さぁ……どう対応する? 華音よ」








華音第二侵攻軍 本営

「やはりエタニアは一筋縄ではいきませんね、久瀬参謀長」

「そうですね、あれほどの技術を持ち強力な兵士を持った国などそうありません。天野総司令閣下」

指揮馬に乗り込み、戦場を見ていた。
二人は敵後方で動き始めた騎馬隊に対応する為に命令を発した。

「歩兵五万を双方に向けなさい」

「御意」

久瀬参謀長はすぐさま配下に命令を伝えた。
命令を伝えられた兵士は馬に跨り、軍団の中に走り去った。

「どう思いますか?久瀬さん」

「所詮烏合の衆ですよ、こちらは」

「でしょうね、数で勝っていても質で劣っています」

「この程度の数の差、あの祐一さんに及びませんよ」

「ですけど……」

「引けないのが我らの定め」

戦場を睨みつつ、決意を再確認した二人だった。








「お?二人みっけ」

「………?」

双眼鏡を覗いていた祐一がそう呟き、すずは訳が判らず首を傾げた。

「どうしたんですか?」

「華音第二侵攻軍総司令官と総参謀長がいたのさ」

双眼鏡を下ろしながら、そう告げた。

「あの様子だとこちらの動きは読まれているよ思ったほうがいいだろうね」

「どうしますか?騎馬隊の出陣を取り辞めますか?」

「いや、純一には秘策を与えてある」

「……?いつ?」

「なにちょっとした時にな」

いたずらが成功したような笑みを浮かべた祐一は、嬉しそうに笑った。

「さて、あと少しで衝突するな」

「はい、槍隊が間もなく敵機動歩兵隊と衝突します」

「さぁ華音よ、力を見せよ」





華音第三軍団機動歩兵隊二十万
エタニア軍近衛軍団預槍隊十万
壮大な戦いが始まった……槍を構えた槍隊は、衝突と同時に華音兵に突き刺した。
完全に突き刺さった槍は重く、簡単には抜けなかった。
敵兵を突き刺した槍をすぐさま手を離し、腰に備えた剣を抜いた。
華音兵は盾を用意しておらず、両手に剣を構え突き刺された味方を避け槍隊に襲い掛かった。
槍に両手を塞がれた槍隊は抵抗できず、命を落とした。
自分達の身を削り、血を吐き肉を砕きながら戦った。
槍を突き刺した兵は一度下がり、まだ刺してない槍兵の後ろに付いた。
それを繰り返し、被害を抑えながら戦った。

「三割方潰したか、よし合図を!」

「はっ!」

槍隊総隊長は、側近に合図をだし側近は持っていた筒を空に向け糸を引き抜いた。
筒から弾が飛び出し、上空へと昇り弾けた。

「あと少しだ!持ち答えろ!」








「槍隊より合図弾確認!」

見張りがそう答えた。

「そうか、ではこちらも合図を出せ!乙一番!」

「はい」

すずは背中の箱から筒を取り出した。
その筒は青く塗られ、他の筒とは違った形をしていた。
すずは筒に付けられた糸を引き抜いた。
その筒から飛び出した弾は上空で弾けた。その弾は煙は出さず、弾けるような音が連続して鳴った。

「さぁ試作三番はどれほどか」

「楽しそうですね」

「楽しいさ、血が滾る」

「狂人にならないように気をつけてください」

「解っている」

祐一は気を引き締め、そう返事を返した。







森の中、設置された試作三番は静かにその時を待っていた。
木に登り、本営の方向を見ていた兵は告げた。

「合図あり!試作三番用意せよ!」

「了解!」

試作三番───エタニアで研究され、近年開発された新型の大砲。
大砲の精度はもとより、威力は途方もない代物であった。

「標準良し、固定完了!!」

「よし、うてぇー!」

掛け声に合わせ、大砲に付けられた太い紐を数名で引っ張った。

「うぎゃっ!?」

「がっ?!」

「ぐっ!!」

大砲は物凄い轟音と共に発射された。
余波を受け、直線状の木々は折れ空へと放たれた弾は雲を弾いた。
大砲の衝撃により飛ばされた兵はすぐに起き、無事を確認しつつ恐れた。

「おいおい…あれはやばいな……」

「あぁ、あれは……絶望の象徴だ」

「おい!無駄話してないで撤収するぞ」

「お……おう!」

すぐさま兵士達は大砲を固定していたモノを退け、大砲にくくり付けた幾重もの縄を馬に括った。

「お前とお前は馬の手綱を取れ、俺と残りは大砲の状態を調査だ」

「「「「「了解!」」」」」

















後方から、凄まじい砲撃音が響いてきた。
戦場に出ている兵士達はすぐさま耳に綿を詰める。
まだ出陣していない兵は手で耳を押さえている。

「来たな」

『『『『『『『来た!!』』』』』』』

幹部達も口には出さなかったが、すぐに耳を塞ぐ。しかし、戦場を見つめる目は決して閉じずに逆に目を見開いた。
試作三番より放たれた砲弾は敵軍勢の中央より僅か後方へと落ちるのが見えた。

「!」

閃光が走った。
閃光が周囲を覆い、僅かに遅れて轟音と強烈な衝撃波が祐一達に届いた。

「くっ……これだけ離れていてもこの威力か!」

「すぐさま被害状況を報告せよ!」

「周囲の警戒も怠るな!」

「なんつー代物だ、敵の半分が吹っ飛んだぞ……」

双眼鏡を片手に、敵勢力を見ていた祐一が一言そう呟いた。





弾が落ちた場所には巨大なクレーターが出来、周囲に居たであろう兵数十万は一気に吹っ飛んだ。

「な?!?」

気を取り戻した天野は絶句した。
自分達の後方に控えさせていた兵四十万が……たった一度の砲撃で……消滅したのだ。

「くっ……なにが………はっ!?大丈夫ですか!総司令!」

衝撃で吹き飛ばされた久瀬も目を覚まし、天野の安否を気遣う。

「私は大丈夫です……ですが」

「な?!」

天野の視線を辿り、絶句した。
その先には巨大なクレーターが出来上がり、その周囲には夥しい数の兵が倒れていた。

「およそ四十万の我が兵士達が……」

「なんと言う……」

「エタニアはまさに悪魔の兵器を!」

「総司令!今こそ徹底抗戦のご命令を!」

「総司令!」

幕僚達は後ろの惨劇に、地に膝を落とし泣いた。

「駄目です」

「しかし!」

「皆さんの気持ちはわかります、しかしこれで敵に勝つことは不可能になりました」

「まだ我らの兵はエタニアとほぼ同数ですぞ?!」

「解りませんか?我らは味方を一度に四十万程も失い、更に先ほどの攻撃によって生じた混乱によりもはや軍ではありません」

「しかし……あと僅かでONEより援軍が」

「解っています……ですが、ここで遅れを取れば、我が華音第二侵攻軍はエタニア軍に殲滅されます」

「───わかりました」

「信号弾を放て、撤退する」

「はっ」

すぐさま信号弾が放たれた黄色に統一されたその煙は撤退の合図であり、それを見た華音兵はわらわらと撤退を始めた。








「おやおや、もう撤退ですか……困りますねぇ」

その様子を隠れて見ていた杉並たちは困っていた。

「隊長、どうなさるのですか?」

「このまま敵を逃がしては再び侵攻の機会を与えるようなモノです。未だONE派遣軍とも合流していませんし」

「ふむ、いいでしょう……第二案に移ります、用意」

「「「「はっ」」」」

杉並の傍にいた数名の兵はすぐさま散った。

「逃がしませんよ、天野さん久瀬さん」















つづく