十六章
盟友が永き時を経て、ようやく同志となった。

そこに、片方の息子の使いがやって来た。

父親は報告を聞き、すぐにその内容を盟友に話しお互いの兵を連れ後方へと下がって行った。

さぁ……ここよりはあの青年のお話です。








魔争戦記


十六章







「父上達は下がったか?」

「はい、ここより後方二十キロの所まで下がるとのことです。そこで陣を張りこちらの様子を見ると……」

雄二からの伝令を伝えにきた兵が、祐一に報告している。

「そうか、報告ご苦労」

「はっ、失礼致します」

兵は頭を下げた後、祐一の元から去った。

「すず、音夢と純一を呼んでくれ」

「わかりました」

すずは礼をした後、音もなく消えた。

「……杉並」

「ここに」

祐一が名を呼ぶと、杉並はすぐにその姿を現した。

「情報は引き出せたか?」

祐一は少し前に捕らえた空中戦艦の生き残りであり捕虜の状況を聞く。

「今、部下を総動員してやっているが……少し難航している」

「かまわん、今必要な情報が最優先だ。今後の情報は後回しでいい、出せるだけの情報を出させろ」

「了解した、それと……」

「どうした?」

「試作三番が先ほど到着した、第二倉庫へ移してある」

「精度は?」

「七割と言った所だ、耐久度に関しては問題はない。この戦で壊れることはないだろう」

「わかった、後で我が兵士たちに設置させよう」

「では」

杉並は姿を消し、入れ替わりに音夢と純一それとすずがこちらに向かってくるのが見える。

「お呼びですか?祐一様」

「お呼びで?」

音夢と純一は敬礼し、用件を問うた。

「兵の配置状況は?」

「すでに準備が完了しています」

「あれの配置は?」

「既に設置が完了し、命令があり次第すぐに使用できる状態になっております」

「杉並の報告で三番が完成したそうだ、あとで設置させておけ」

「わかりました」

「敵が予定地点に到着するのは?」

「あと三十時間程となっています」

「なに?また時間が早まったな、理由は?」

「敵が移動に徒歩以外の物を使ってるからだそうです」

「徒歩以外?馬車か?」

「そのようです、問題は敵がどう動くか……ですか?」

「その点はいい、そうさせるのが俺達の腕の見せ所だ」

そう言って祐一は不敵に笑う。

「祐一様には適いませんね」

「そう言うな、音夢。これより二時間後、将達を全て私のテントに集めてくれ」

「了解しました」

「純一、私の兵を三百程集めて城の第二広場に集合させてくれ」

「了解」

純一と音夢は再び敬礼した後、その場を後にした。

「ちっ…血の匂いが空気に混ざりつつある」

祐一はそう言い、顔を歪める。









それから、二十九時間が経過した。

「あれか」

ようやく見えてきた敵の軍勢。

大地を覆いつくし、地響きを立て土煙を上げながら、徐々にこちらへと向かってくる。

「かなりの軍勢だな」

「そうですね……ですが、烏合の衆に見えます」

すずの言う通り、華音の軍勢は形こそ揃っているものの色々と混ざったような感じがする。

「さて……」

祐一は振り返り、我が軍勢を見渡した。
陣地に勢ぞろいし、一糸乱れぬ体勢で立つ軍勢は正に壮観と言えよう。
総兵力五十万、全ての兵士は皆、緊張の中でも余裕の表情を浮かべている。
まさに戦士の顔である。

『我がエタニア兵たちよ!これより我等は、戦いの火種の消火にかかる!だが、この火種は易々と消えてはくれないだろう……しかし!我がエタニア将兵たちの決意と努力が集結すれば消すことは可能である!我が英雄兵士諸君、我等はエタニアに混乱と悲しみを与えようとする華音第二侵攻軍を迎え撃つ、相手はあの天野と久瀬だ。決して油断せず、各々の長たちや部隊同士での連絡を密にせよ!我等は勝利する!そして勝利の報を持ってエタニアへと帰還するのだ!!』

『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『おぉぉぉーーーー!!!』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』

祐一の激を受け、将兵たちはそれに答えるように雄たけびを上げる。
戦いの緊張はどんどん高められていく…






ガルシャウラ軍団と倉田が率いる亡命軍は、ゆっくりと城へと向かっている。

「祐一君は大丈夫でしょうか?」

「大丈夫だ、この程度の戦で負けるような者は相沢を名のれはしない」

「大変ですね」

「なぜ、祐一があの異名で呼ばれているか……そなたにはわかるか?」

「たしか。不動鬼神でしたか?いえ、わかりませんね」

「あやつはどんな状況であろうと冷静さを失わず、また……やつが本格的に動けば敵は破滅することを意味している」

雄二の言う通りであるが──今だ、雄二でさえ祐一の本気を見た事は一度しかない。

「そうですか」

誠也はそれ以上何も言わず、ただ……空を仰ぎ見た。





「祐一総司令」

「そろそろ……敵も痺れを切らす頃合か」

「そのようです、我が陣営の前方二千の地点で陣を張り、隊列を整えています」

「そうか、ならばこちらも用意するとしよう」

祐一は右手を上げ……

『槍隊!前へ!』

祐一の命令が響き渡り、槍隊が陣営の前衛に出て槍を構える。

「すず、二番を打ち上げろ」

「はい」

祐一に言われ、すずは背中に背負っていた筒の一つを片手に持ち、筒の底に付いていた紐を引き抜いた。
すると、筒から特殊な弾が打ち上がり、上空で破裂する。
上空で破裂した弾は、青と赤の煙を発生させた。








それは合図である、その合図を確認した城壁監視兵。

「信号弾確認!赤と青!」

「よし、射撃よーいっ!」

城壁護衛部隊隊長が合図を送り、砲撃手が準備する。

「一番から十番順次発射用意……てぇー!!」

隊長の合図で大砲の線を砲撃手が一気に引く。
轟音が鳴り響き、弾が発射された。
それを皮切りに、次々と大砲から砲弾が発射される。
放たれた砲弾は、祐一たちの頭上を通過し華音軍の前方に落ちていった。
───横一列に。








「くくく……敵さん、慌ててるな」

戦場を見ながら、祐一は笑っていた。

「そりゃ慌てるでしょう?いきなり、大砲の音が響いたと思ったら、自分たちの目の前に……しかも、横一列に綺麗に着弾したら」

音夢もそう言いながら顔は笑っていた。

エタニア将兵は、この程度の戦では武者震いすらおきはしない。

将兵たちの顔には一様に緊張の中にも余裕すら見え、祐一と同様に笑みを浮かべている者もいる。

「さぁ敵がぞろぞろと出てきたぞ」

「あれは、華音ご自慢の第三軍団機動歩兵隊ですね」

双眼鏡を片手に見ていた音夢が告げる。

「機動歩兵?」

「華音軍の中でも、機動力に特化した第三軍団の中でも更に随一の機動力を誇る機動歩兵隊です」

「なるほど、進退は風の如く……兵法は知っているようだな」

双眼鏡で敵旗を確認しながら笑みを浮かべる。

「さて、動くかな……すず、五番を打て」

「はい」

すずはまた同じように背中から筒を取り出し、同じように引き抜いた。
打ち上げられた弾は上空で弾け、今度は赤色の煙が発生し音が鳴った。

「さぁ……闘争の始まりだ!」













つづく