十四章
さぁ……これから、宿命の師弟の戦いが始まる。

師を越えることが出来るのか?

それとも、まだ力は足りないのか……







魔争戦記


十四章







鍛錬場の扉を開け、中に入ると……そこは。

「まるでゴミの山だな」

人で溢れかえっていた。

「なんでこんなに観客がいるんだ?」

祐一が、首を傾げ不思議に思うのも無理はなかった。
今は戦時下である、兵士はほぼ全て戦闘態勢になっており、詰め所や配備場所に行っているはずなのだが……

「こんなに道楽好きだったのか?うちの兵士たちは……」

頭を抱える祐一だった。

「・・・・・まぁいいか」

(いいんだ・・・)Byすず

祐一が姿を現し、それを見つけた兵士達は一斉に静かになる。
祐一は静かにリングに向かい、歩みだすと兵達は一斉に立ち上がり、姿勢を正し敬礼した。
敬礼された祐一は、微動だにせず敬礼し口を開く。

「各自休め」

その言葉で皆座り静かに事の成り行きを見る。
リングでは、既に一弥が立っていたが……。

「祐兄さん〜〜!」

一弥が涙眼で近づいてきた。と言うか……半泣状態である。

「どうした?」

「なんかもの凄く睨まれてるんですが〜(汗」

良く見れば観客の兵士達は、一弥を鋭い視線で睨んでいる。

「そりゃ当然だ、お前が俺と戦えるからだ」

「なんでですか──?!」

「俺と戦えるのはエタニア内部でも師団長以上の階級のみだ……まぁ、例外もないわけではないが」

そう言いつつ、後ろに控えてる忍者の少女を見る。
少女は肩を僅かに揺らした…哀れ…かな?

「そうなんですか?!」

「まぁそれに俺は暇じゃないからね。普段は」

「はぁ……」

「じゃ、さっさと始めよう」

そう言って祐一は剣を抜き構える、一弥も距離を取り構えるが……

「グッ・・・」

「どうした?」

「(なんなんですか?!これは?!)」

祐一は剣を構えた瞬間、気を開放した。
開放された気はそのまま一弥に纏わり付き、その後ろにいた兵士達にも絡み付く。
気が絡み付いた殆どの兵士が金縛りにあったかのように止まる。
後ろに控えてるすずも、そしてそれを直に当てられてる一弥も……。

「ふむ、大分強くなっているようだが……まだ甘いな」

そう言って祐一は気を消す。
その途端、気の圧力から開放された一弥達は自由になった。
しかし、一弥は安堵を浮かべる余裕はなかった。
荒い息遣い・止まることなく溢れる汗・手の震え……。
一弥はこの時、祐一を恐怖していた。


そして、自分の無謀さを……。


「さぁ……闘争を始めよう!」

それからは異様な光景であった。
一弥は剣を幾多も向けるが、祐一はそれを片手で捌くだけ。
剣で攻撃せず、ただ左手で一弥に攻撃を捌く。
時折、武器を持っていない右手を遣い一弥の体に打撃を加える。
二人とも互いに鎧を着ている。
鎧は多少脆くとも早々壊れることはないはずなのだが……
祐一が打撃を加えた所は、ほぼ全てと言って良いほどに拳大に凹んでいた。

「グッ……(アバラが数本……折れたかな、鎧を着ていて打撃だけでこの威力)」

「一弥」

数秒前まで、目の前にいた人の声が耳元で聞こえた。一弥は顔を後ろに向けると、祐一が屈み姿勢でそこに居た。

「!!」

「遅い!」

すぐさま避けようと動き出そうとするが、それより遥かに早く祐一の拳が一弥の胴体に吸い込まれるようにして直撃した。

「ガッ!?」

一弥はその攻撃で吹っ飛ばされた、飛ばされながら薄れゆく意識の中で自分の眼が見たモノは、攻撃され破壊された……自分の鎧だった。
そこで、一弥の意識は堕ちた。

「あちゃーー……やり過ぎたか」

祐一はポリポリと頭をかくと傍に控えていた救護班を呼び、一弥を任せすずを伴い鍛錬場を後にした。
残ったのは、救護班に回復魔術などの処置をされている一弥と祐一の圧倒的な力を見せられ、固まったままの観客たちであった。





エタニア軍の訓練方法は他の国と比べると遥かに異質である。
いや、軍そのものすら異質であると言える。
まず、エタニア軍は基本的に志願制で成り立っており、十五歳を迎えた者は男女の違いもなく、身分の違いもなく例外なく志願できる。
ただし、貴族位を持つ者は徴兵制ではあるが……
志願をした者は最低でも五年間を軍に身を捧げる。
しかし、この五年で終える者は三つ…病弱な者・戦闘で負傷し戦闘できない体や心になった者・また自分からやめる場合の三つである。
ただ…あまり率先してやめようという者は数少ない。
理由としては、エタニア軍は能力が高く認められれば、例え農民出身の者であろうと上層部の階段を上ることが出来るようになっている。
そして、更に認められれば祐一を始めとする王族直属になることさえ可能である。
その最たる例が純一や音夢である。

そして訓練の仕方であるが…エタニアに刃を落とした剣や木刀などといった非殺傷武器は存在しない…
軍に入隊した当初から全ての訓練は真剣で行われるのである。
当然、まだ新米兵士はその訓練などで怪我をする者が多い、その為にエタニアの回復魔術は他の国を突き放して発達している。
例え王族や貴族であろうとこの訓練を受けていない者はいない…
その性か身分の違いによる差別などは軍にいる限りほとんど存在しない…
まぁ多少はあるが、それでも全体に比べれば微々たるものである。

更に詳しいことは外伝で記すので、今回はこの辺までで……




さぁ次は、遂に始まる戦争の幕開けだ…だが、まだ誰一人としてこの戦争が全世界に広がる火種になろうとは何人たりとも思っていなかった。











つづく