十三章
決戦が刻一刻と近づくここ……エタニアの最前線に近い城では、戦の準備が着々と進んでいた。





魔争戦記


十三章








祐一は、昨夜配下にしたばかりのすずを伴い、会議や現場視察を行っていた。

会議室にて…

「で、準備のほうはどうだ?」

祐一にそう言われ、一人の女性将官が立ち上がり報告書を見ながら報告する。
その女性将官は部隊編成を任せられている将官であり、祐一の配下である将官の一人である。

「はい、現在までに七割程完了しており……完成までに、あと半日と言ったところです」

「わかった、次」

次に立ち上がった将官は、物資を一手に任されている将官の男性である。
老練な手腕で、祐一の期待にいつも答えてきた古株の一人でもある。

「はい、食料の備蓄に関してですが……あまり良くありません」

「長期戦には向かないと?   ん、ありがとう」

報告を聞きながら意見を言い、傍らに寄ってきた城に仕えるメイドから飲み物を貰い、礼を言う。
メイドは笑顔を浮かべ、礼を返す。

「現在の所、予備備蓄や買収を行って用意しておりますが未だ不足の点を考えても、長くて二ヶ月程が継続限度だと思われます」

「二ヶ月か……無理にやった所で国内外に悪影響を及ぼすか……大丈夫だとは思うが、引き続き買収を続けてくれ。必要なら魔界にも嘆願しろ」

「了解しました」

「純一、なにかあるのか?」

椅子に座って、機嫌が悪そうにこちらを……いや、すずを見ていた。

「いや、なにっていうか…さ、その子はだれ?」

「あぁ……言い忘れていたな、俺の配下となった……」

「藤林 すずです」

静かに……しかし、はっきりと言いすずは頭を下げる。

「藤林ってーと……もしかしてミッドガルズの?」

「兄さんが知ってるなんて…」

音夢が小さく呟く、純一は聞こえていないようだったが祐一やすずにはしっかりと聞こえていた。
他の将官も聞こえていたようで苦笑いしていた。

「その通りだ、まぁ事情があってな……うちに囲うこととなった。一族全てな」

「まぁそれはいいんすけどね」

「で、あれの準備は?」

「陣地の方はほぼ完了して、今はあれの設置をしているとこだ」

「ならいい、音夢 父上の軍団の配置は?」

「予定通りの場所で陣を配置しております、遭遇はあと二十七時間ほどと現在予測しております」

「ふむ……諸君、知っての通り先遣軍団との会戦はない、あれはいずれ味方となる。だが、問題なのは次だ」

「第二侵攻軍ですな?」

「そうだ、やつらを一兵たりとも我らの領地に入らせるわけにはいけない。よって諸君らに言い渡す」

「「「「「「────」」」」」」

全員が真剣な眼差しで祐一の次の言葉を待つ。

「第二侵攻軍の軍団長と参謀を、生きたまま俺の前に連れてこい」

「それはどうしてですか?」

「いずれわかる、やつらを生きて連れてこい」

「「「「「はっ」」」」」

「音夢、第五師団を呼べ」

「よろしいんですか?」

「なに、やつらも暇だろうからな」

「わかりました」

「以上を持って本日の会議は終了する、総員各持ち場に戻れ!解散」

「「「「「「「はっ!」」」」」」

全員が一斉に立ち上がり敬礼し去っていった。

「すず、お前は笑ったほうがいい…戦争が終われば忍も必要となくなる。終わればな」

「…はい」






その後、すずを伴い現場視察を行った祐一は配置図と現状を見比べ、指示を飛ばしたあと佐祐理さんたちのもとへと足を運んだ。

「久々ですね、佐祐理さん 一弥 静香さん」

「あら、お疲れ様です。祐一さん」

「お疲れ様です〜祐一さん」

「祐一さん、お疲れ様です。どうですか?状況は」

「そうだね、あまり良くはないかな」

そういった後、祐一は椅子に座り佐祐理さんから紅茶を貰い、口にする。

「そうですか……それと、そちらの女の子はどちら様でしょうか?」

「あぁ紹介していませんでしたね、私の配下となった……」

「藤林 すずです。よろしくお願いします」

そう言って丁寧に、礼儀正しくお辞儀をする。

「倉田 静香です。小さいのに偉いのね」

「倉田 佐祐理です。かわいいですね〜」

「倉田 一弥です。こちらこそよろしく」

「静香さん、我らは華音と戦うこととなりますが……貴女方は、どうなさいますか?」

「どうとは?」

「参戦するのか、それとも後方支援だけか、傍観かという点です」

「さすがに私の一存では、決められませんね……夫が、こちらに到着したら答えをくれると思いますよ」

「そうですか、まぁいいでしょう」

祐一はある程度、この答えを予測していたのかあまり驚かず普通に返事を返した。

「祐一さんはこれから休息ですか〜?」

「そうですよ、佐祐理さん」

「僕と手合わせ願えませんか?」

「ふむ……面白そうだね、やり方は前の時と同じでいいかい?」

「はい、それでいいです」

「いいよ、なら一刻後にこの城の鍛錬場においで」

「はい!」

「では、静香さん佐祐理さん一弥、またね……すず、行くよ」

「───はい」

そう言って祐一は、すずを伴いその部屋を後にした。









一刻後、その鍛錬場の客席は観客で溢れかえっているのをまだ知らない…










つづく