今日は、少しほのぼのとしたのでも書きましょうか……
魔争戦記
十二章
祐一は、今────
今………
今……
眠っている。
「───」
余程の疲れが溜まっていたのだろう……先ほどまで、軍議や陣地の設置など多忙を極めていた。
純一や音夢などは祐一から与えられたことをこなし、杉並は……不明
現在の時刻 午前三時
普通なら眠りにつく時刻ではあるが、戦争が迫ったこの城は今も兵が慌しく動いている。
祐一はある程度やり終えると残りを部下に任せ、睡眠を取るために宛がわれた部屋へと行ったのだ。
祐一は部屋に着くと、鎧などを外さずにそのままベットへと倒れ、すぐに意識を手放した。
この部屋の前には、兵二名が常時待機している。
祐一は不要だと言ったのだが、純一曰く『次期国王が戦時下に護衛もつけずに眠るのは有り得ない』だ、そうだ……
言っていることに意味がないわけでもなく、まして戦時下である為、祐一も素直に了承した。
祐一が眠りについてしばらくすると……見張りの兵が音もなく静かに倒れた。
すると静かにドアが開き、影が一つ……いや二つ、中へと入ってきた。
その影は、暗闇のせいで姿が見えないがどうやら子供のようである。
その影たちは、互いに声を出さずに祐一を見つめ互いに頷き、剣を抜いた。
剣を抜き終えた影たちは、祐一が眠っているであろうベットの膨らみ目掛けて、一気に剣を突き刺す。剣を突き刺し、互いを見ようとその影たちが向き合った時……部屋に明かりが灯った。
「こんばんわ、侵入者さんたち」
視界が急に明るくなったせいで少し視界が悪かったが声を聞き、振り返ると……そこには無傷の祐一が立っていた。
「「!?」」
「おやおや………いけませんね、仮にも次期国王の寝床に侵入し、あまつさえ剣を向けるなどと」
「「!?」」
影は、一斉に窓の方を向くと杉並率いる部隊が、いつのまにか整列していた。
「さっさと降参してもらえるかな? 次期国王の寝床を血で汚したくはないのでね」
「クッ・・・」
杉並に言われ一人の影が武器を捨てたが、もう一人の影は一向に武器を捨てようとしない。
「ほぅ……」
「───」
「───」
祐一はなにか感心したような声をつぶやいたが、影の二人は相変わらず無言である。
「埒が開かないな……フェイ」
「はっ」
いつのまにか後ろに控えていた初老の男性 フェイは祐一が愛用している剣を渡した。
「最近削られっぱなしの睡眠時間……奪うとは………奪うとは……なにごとじゃー!!!!」
────なぜか祐一はキレていた。
「「「「「「「「「な!?」」」」」」」」
杉並たちは一斉に口をぽっかりあけていた。
まぁ敵に隙を作るようなヘマはしてないようだが……
影は迫り来る祐一に対処する為、剣を構えたが祐一の姿は剣と剣がぶつかる寸前に……霧のように消えた。
「!!」
影はすぐに四方を見回したが祐一の姿がなかった。
上かと思い天井を見上げるが……
「はずれだ」
祐一の声は下から聞こえた。
そう、自分の影の中から祐一は顔を出していた。
「!!」
すぐさまその場を飛び、距離を取ろうとはかるが……
「遅い!」
祐一の拳が、影の腹部に吸い込まれるように命中した。
「カハッ!!」
そのまま影は壁に叩きつけられ、ベッドに落ち意識を手放した。
「いい運動にはなったな、杉並……あいつを手当てしてやれ、お前はそのまま残れ」
そう言われ、杉並は数名の部下と共にベットに倒れた影を担架に乗せ、手当てをするために一緒に退室した。
それに合わせるように他の兵も消えており、部屋に残っているのは祐一と影とフェイであった。
「祐一様、お飲み物はいかがでございますか?」
「珈琲を貰おう、君はなにを飲むかね?」
「───」
問われた影は、答えなかった。
「では、お茶をご用意いたしましょう」
そう言って、フェイはお辞儀をしたあと退室した。
「さてと……」
祐一は部屋に用意されていた椅子に腰掛けた。
「お前の名は?」
「……藤林 すず」
影……もとい、すずは素直に自分の名前を語った。
祐一の瞳がすずを捉え、虚言は許さないと語っていたからだ。
「藤林? たしか、第一大陸として名高いミッドガルズ大陸にあるという忍者の一族の名だな」
「……そう」
「だが、あの大陸は随分前に終戦を向かえ、我がエタニアとも貿易をしている国ではなかったか?」
「───」
すずは無表情で何も語らない。
「雇ったのはやつらか?」
「───」
「今はなき筈の五大統治結社のやつらだな?」
「!」
すずの表情が僅かに動いた。
それを見た祐一は、確信を得た。
「なるほど、この大陸にまでやつらの手が及んだか……いや、逃れてきたと考えるべきかな?」
五大統治結社
国という枠を超え、世界規模で戦争などを仕切る……五人の超人たちが組織したものである。
五人はありとあらゆる、戦争・紛争・内乱などに介入し相互を調整し、戦いを長引かせ軍事物資の輸出で私服を肥やしていた。
しかし、昨年ミッドガルズ大陸においてミッドガルズ王国と我がエタニア国が協力し合い、組織を徹底的に潰した。
だが、五人の頭のうち二人までは討伐することができたが、残り三名は依然として行方が判明していない。
おそらく忍者の里に逃れた後、この大陸に眼をつけたのだろう。
「お前たちの一族は今、どうしている?」
「変わらず、普段通りに生活している」
「見張られているということか?」
「───」
すずは答えず、ただ頷いた。
「条件をつけてやる、すず……お前を含めた忍の里……全てが俺に忠誠を誓え、さすればお前たちに自由を与えよう」
「自由?」
「そうだ、束縛されぬ自由を」
「……信頼できる証明は?」
「一週間以内にお前の里の仲間、全てを我が領地に連れてきて衣食住を完備してやろう」
「……それを見て、判断する」
「良いだろう、杉並」
そう言って、祐一は手元にあった鈴を鳴らすと……
「ここに」
もう一つの影を連れて退室したはずの杉並が、いつのまにかすずの後ろに立っていた。
「詳細は聞いたな?」
「はい」
「すず、里の長に先ほどの件を書いた書状を書け。杉並はやることはわかっているな?」
「一週間以内に忍の里の民をエタニア渡らせ、衣食住の完備した里を用意するのですね?」
「その通りだ、第8師団と第3兵団を使って件にあたれ」
「畏まりました」
「……はい」
「すず……また、あとで俺のとこへ来い。話がある」
「───」
すずは返事をせず……
小さくコクリと頷いた。
おまけ
「そうだ、クレスたちのとこにあれでも持って行かせるか」
そう言った祐一の顔は、悪戯を思いついた子供のような顔だったと後に、杉並は記している。
数日後、ミッドガルズのクレスたちの下にあるものを届けた杉並の部下は言った。
「クレス様でいらっしゃいますか?」
「はい、私がクレス=アルベインですが……貴方達は?」
「申し送れました、我らはエタニアに忠誠を誓う兵でございます」
「エタニア……祐一の所か」
「はい、今回は祐一様よりこれを預かっております」
兵はクレスに書状を手渡す。
「へぇ、すずちゃんの所の里人を全部エタニア領へ?まぁ……それはいいけど、なになに……は?これ本気?」
書状を読みながら、ある項目の事を兵士に質問する。
「本気と書いてまじだそうです」
「───」
がっくりと項垂れるクレスを哀れとは思う兵ではあったが、やることが迫っていたので心を鬼にして言う。
「それとあれを預かっておりますので後でご確認ください」
「あれ?」
「あれです」
そう言って、兵が指差した場所には数名の兵に守られている大きな箱であった。
「まさかあれ?」
「そのあれだと思います」
「わかりました、祐一に伝えておいてください。了解しましたと」
「畏まりました、では失礼いたします」
そう言い、兵たちがクレスに向かい敬礼をした後、ワイバーンに乗って飛び去って行った。
ワイバーンはエタニアに忠誠を誓っている魔獣の中でも高位に位置するものたちで色々な用途に使用できる
ワイバーン一体につき兵が一名が割り振られるのだが、その選考方法は厳しい。
まず人間として祐一に見極められ、次に武術魔術などを音夢や純一などに見極められ、最後にワイバーンの長にその素質を見られる
確立で言えば、ワイバーンに乗ることが許されるのは千人に一人いれば、良い方だと言われている。
なので、乗り手には万事不足しているが、選考方法は決して緩めない。
まぁ話がそれたな……
残されたあれを見て、クレスは
「─────どうしようかな………」
途方にくれていた。
つづく
十二章
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