十一章
さて、今回は前哨戦の少しだけ前のお話をしましょうか……

運命は予想もつかない結果をもたらす。

それは何人にも予想できず、また誰であろうと……

その覆らない結果を……






魔争戦記


十一章





ライネリア城に着いた祐一達は、すぐさま城に設けられた特設の会議場へと向かった。
会議場に着いた祐一達を、その場にいた者すべてが敬礼をし出迎えた。

「音夢、報告を聞こう」

テーブルの一番奥に用意された椅子に腰掛け、会議を始める。

「はい、現在までに集計した情報から推測するに第二侵攻軍ですが……倉田兵団から四十八時間程の距離を、徐々に移動しているものと考えられます」

「なに? 確かか?」

「はい、華音に当たらせている偵察兵からの報告です……狂いはないかと」

「ふむ……予定より格段に早いな、ONE連合の方も同様か?」

「いえ、こちらは多少遅れますが第二侵攻軍より二十時間程の遅れと推測されます」

「ふむ、侵攻軍の規模は?」

「───不明」

「なぜだ?」

「それを調査していた者、末端に至るまで全てが消されました」

「ほぅ……杉並の部下が殺られたか……手強いな」

「はい」

祐一はそう言いながらも報告書や戦況図を睨み続けている。

「これはなんだ?」

祐一は、戦況図にある一つのポイントを指した。
そのポイントには赤く×印が付けられている。

「そこは、帝国偵察部隊とは別に探索を行っていた兵が突如消えた場所です。後に、その場所を調査した時には、なにもありませんでしたが……」

「今だその消息を絶った偵察兵は、見つかっていないんだな?」

「はい、現在も少数ながら兵を割いて捜索に当たらせてますが……」

「そうか」

祐一は何かが引っかかってはいたが、あえてそれは口にしなかった。

「副団長!」

その時、会議室の扉が慌しく開かれ一人の兵士が入ってきた。
入ってきたのは情報将校で杉並の部下である

「どうした?」

「!失礼致しました……団長、これをご覧ください」

祐一の姿を確認した情報将校は姿勢を正し敬礼した後、持っていた書類を祐一に手渡した。
それに素早く目を通していた祐一ではあるが、ある一箇所を読んだ瞬間、表情が強張った。

「なん……だと!」

「どうしたんですか?」

「これを見ろ……」

そう言って、祐一は書類を音夢に手渡す。

「はぁ……」

手渡された書類に素早く目を通す……すると……

「な! 第二侵攻軍……総兵力八十五万!?」

「「「「な?!」」」」

音夢の驚きの声はそのまま会議室にいた者たちの耳に入り、その者たちもまた驚愕の声をあげる。

「ありえない、どこからそんな兵力を出した……! まさか奴等!」

「周辺小部族の男たちを強制的に徴兵した模様です……」

「なんだと……」

徴兵とは名ばかり、強制的にとは……その部族の……妻や子を人質に徴兵したのだ。

「華音め、物量で来たか……」

「どうなさるのです?これにONEの約四十万が加われば我らより遥かに勝ります」

「わかっている、音夢……あれは持ってきたんだな?」

「あれですか?えぇ、たしかに技術部に用意させましたけど」

「そうか、ならば、それをここと……ここ……そしてここに三等分に分けて配置、合図と共に……終了後、それを完全に破壊後に兵を撤収させよ、敵に気づかれないようにな」

「了解しました」

音夢は敬礼すると、どこかへと向かう為に会議室をあとにした。

「純一」

「なんだ?」

祐一の呼びかけに面倒そうに頭を掻きながら答える純一。

「兵2万をここと……ここに連れて行ってくれ、試作中の大砲を設置する陣地を作らせる。それから工作兵も連れて行って丸太で塀を作らせてくれ、その後ろに弓兵を配置するからな、確実なのを頼むよ」

「うぃっさー」

そう言って、純一は軽口を叩きながらも敬礼をし会議室をあとにした。




純一が退室した後、その後も戦略を幕僚と共に練っていた祐一だが、休憩を取るため祐一にあてがわれた部屋へと向かった。
部屋に入った祐一は……

「───杉並、いるだろう?」

「ここに……」

祐一の問いかけに、杉並は答えながら真後ろに姿を現した。

「相変わらず心臓に悪いやつだ」

「ご冗談を……その私の位置を掴める祐一のほうが凄いですよ」

杉並と祐一は苦笑いしていた。

「で、敵の総数に違いは?」

「あまり相違はない、詳しく言うなら……」

「言うなら?」

「華音第二侵攻軍の詳細情報だが、華音正規軍第一から第七軍団の兵力五十八万、周辺部族の男たちを強制的に徴兵し、その数は二十七万」

「最高司令官と参謀は?」

「天野 美汐最高司令官と久瀬 幹久参謀長であります」

「なるほど、あの天野と久瀬か」

祐一の中に、感情表現が下手だけれど素直な子や悪ぶってはいるけど根は真面目な男子が思い出されていた。

「しかし、正面衝突すれば負けは確実ですよ?」

「正攻法ならな」

「いやはや……やはり貴方は食えないお人だ、昔も今も」

「当然だろう?」

祐一は、どこから出したのかワインの入ったグラスを二つ出し一つを杉並に渡す。

「我らの勝利と」

「我らの国の未来に」

「「乾杯!!」

キン!

グラス同士が軽くぶつかり、いい音色が静かに響く。
二人は笑みを浮かべながら、一気にワインを飲み干す。

「じゃあとでな」

「ああ」

祐一は部屋から出て行き、部屋には……誰もいなかった。
まるで、最初からそこにいないかのように……












つづく