八章
激しく活発に動き始める歯車は、誰にも予想のつかない結果をもたらすこともある。

それが良いことであれ……

悪いことであれ……







魔争戦記



八章






エタニア国王都 レフェニア城外には現在、近衛騎士団が整然と整列し出発の時を待っていた。
その数30万、どの兵も祐一を始め幹部たちから鍛え上げられた猛者たちである。
現在の近衛騎士団は、祐一の父 雄二の軍団ガルシャウラの次に憧れ求められる配属先である。
近衛騎士団の中でも中枢、近衛機動部隊は祐一が直轄する部隊で構成員は百名とも千名とも言われている。
この近衛機動部隊に入ることこそが、エタニアで騎士を目指す者すべての憧れである。
この近衛機動部隊に入れる確立は、王族守護を主な任務とする親衛隊のメンバーになるよりも難しい。
コホン……話がそれたな、この話は後日外伝でお話しましょう。
近衛騎士団は現在すべての準備を完了し、団長たちの到着を待っていた。



その頃、祐一たちは雄二たちと謁見していた。

エタニアの伝統行事、勝利の祈りが行われていた。
まず父であり王である雄二が王座に座り、その左隣に妃にして祐一の母 裕香が控え目の装飾を施したドレスを着て立ち……右隣を雄二の側近中の側近 雄二の懐刀と称される玖狼 憐夜 (クロウ レンヤ)が鎧を装着し控えている。
祐一は雄二の前で方膝を付き顔を下げている、その少し後ろに朝倉純一と音夢も同じようにして控えている。
雄二は立ち上がり、玖狼から愛用の剣【愁歌零武】と言う名刀を受け取り鞘より抜き放ち、刃を横にし祐一の肩に乗せるように置いた。

『近衛騎士団団長、相沢祐一よ』

「はっ」

雄二に名前を呼ばれ、祐一は顔を上げぬまま返事をした。

『汝はこれより戦へと出向き、数多の命を奪い失うであろう』

「───」

『汝はこのエタニアを祖国とし、世界の秩序の為に戦い生き残れ』

「御意」

『再び会い見える時は勝利の報を携え、我の前に参上せよ』

そこで雄二は剣を祐一の肩からどかし、それを確認した祐一は立ち上がり剣を抜いた。

『我、近衛騎士団団長 相沢祐一は今この時盟約を誓い再び謁見するその時は、勝利の報を携え参上いたします』

剣を顔の前に垂直になるよう横に両手で持ちそう宣言した。
朝倉純一と音夢も同じようにして瞼を閉じている

『『ここに勝利の誓いを宣言し、我らエタニアに生きとし生ける者達の為に戦うことを我等の誓いと戦う意味と成す』』

祐一と雄二は互いに剣を構え キンッと少し刃が交わる音を立てるくらいに合わせそう高々と宣言をした。

『『『『『『『『『『『『我等エタニアに世界の加護があらんことを!』』』』』』』』』』』』

謁見の間にいた者は自分の愛用の武器を取り出し、雄二たちと同じように天に掲げそう続いた。
これで勝利の祈りの儀式は終了となった。
各々武器を納め、祐一が一歩歩み出た。

「これより我等、近衛騎士団総勢三十万将兵は出陣し必ずやエタニアに勝利をもたらします」

祐一はそれだけ言うと敬礼し、朝倉兄妹もそれに続き敬礼した。
雄二が頷いたのを確認した祐一たちは敬礼をやめ、お辞儀をしたあと退室した。
祐一たちは謁見の間を退室したあと、すぐに城門の所に待機させてあった自分の馬に跨り、城外に待機させてある近衛騎士団の所へと向かった。
雄二たちは、その姿を城の空中庭園から見下ろし見送った。









城外にいた近衛騎士団の精兵たちは、祐一たちの姿を確認すると一斉に姿勢を正し敬礼をした。
祐一たちもそれに合わせるように敬礼し、近衛騎士団中央部まで進んだ。
そこで、祐一は高らかと宣言した。

『我らエタニア近衛騎士団は、これより華音より侵攻してくる部隊を向かえ討つ為出陣する。我らに敗北と言う字は存在しない!生き残り勝利を掴みエタニアへと帰還するのだ!!』

『『『『『『『『『おおおおおおおおーーー!!!!』』』』』』』』』

祐一の宣言を聞いた兵士達は一斉に雄たけびを上げ剣を天へと向け抜き放った。

『近衛騎士団、出陣!』

祐一の号令の下、祐一を先頭とし両脇を朝倉兄妹が控えその後ろを騎士団の精兵が続く。









祐一たち近衛騎士団が出発したのを見届けた雄二は、鎧を着込み城下に待機させてあったガルシャウラ軍団の下へと行き、祐一と同じように宣言をしたあと出陣して行った。

「(裕香、留守を頼む)」

そう口には出さず城のテラスより見守る自分の伴侶に向けそう思いつつ、前を向き馬を進めた
ここにエタニア軍総勢四十万の軍勢が出陣を完了した。
























それから十二時間後、祐一たち近衛騎士団はレフェリアより百キロ程の地点まで進んでいた。(通常の行軍であれば、ここまで早く移動はできない)

「純一・音夢、あとは手筈通りこのまま進め」

「わかった、祐一も怪我とかするなよ」

「祐一さん、気をつけてくださいね」

「ふっ……ハッ」

手綱を馬に打ち付け、馬に命令を与える。
祐一たちは短く言葉を交わしたあと、祐一だけ馬を走らせ始めた。
そのすぐ先には祐一の直轄機動部隊の面々700が待機しており、祐一がその前を駆け抜けるとその面々も手綱を振り下ろし、走れと命令を与え馬を動かし、祐一のあとを追い始めた。
地響きを響かせながら速度を上げ先へと進んだ。

「兄さん、祐一さんは大丈夫かな?」

「大丈夫さ、祐一は死なない……俺達に生きる術を教えてくれた祐一が、簡単に死にはしないさ」

「………(そんなこと言ってるんじゃないんだけどな)」

音夢の予感めいた悪い感じは、確実に当たらなかったが確実に外れなかった。











つづく