さてまた戦記を書きましょうか──
今回は、前回の続きから……
魔争戦記
三章
ふと、眼が覚める。
「ここは──」
そうか……あの時、傷がまた痛み出して気を失ったのか……
「あの者らは私を殺すつもりはないようだな……」
その証拠に、俺の傍らには本を読みながら眠ってしまったのであろうレンが、椅子にもたれ掛かりつつ静かに眠っていた。
俺が殺さないとでも思っているのだろうか?
しかし、殺意はない。
「ん……あ!起きられましたか?」
眼を覚ましたレンが、開口一番にそう聞いてきた。
「あぁ」
たしかにまだ多少体は痛むが、概ね大丈夫そうである。
「君の治療のお陰か、調子は悪くない」
「そうですか〜♪」
誠也の労いの言葉に、気を良くしたレンは嬉しそうに微笑んだ。
魔族でも、こんな表情が出来るのか……
誠也は、別の意味で驚いていた。
「あ、相沢様から連絡を言付かっております」
「ん?」
「『動けるようなら自分の足で動き回ってみるがよい』だそうです」
どういう意味だ?
「恐らく貴方さまに私たちの実情を、その目で見ていただきたいのかと思われます」
誠也が黙っているのを見て、レンがそう言ってきた。
なるほど、
「そうか、なら……少し散歩しておこう」
「お供はいりますか?」
「そうだな・・・初めての場所だ、出切ればお願いできるか?」
「少しお待ちください」
レンはすぐ近くにあった鈴を鳴らした。
鈴を二度鳴らし、少し待つと……扉に小さく付けられた扉からなにかが入ってきた。
「フェイ、この方にこの城を案内してあげてくれる?」
先ほど入ってきたものをレンは、フェイと呼びそう伝えた。
『わかった』
フェイと呼ばれたものは、短くそう答えた。
『お主が拾われてきた者か、我は【フェイ】主の使い魔だ……ま、よろしゅうな』
自らを使い魔と言ったフェイは、誠也の肩に飛び乗った。
『ほら、行くぞ』
「では、行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
誠也が挨拶すると、レンも律儀に返してきた。
扉を出て少し歩くと大きな庭があった。
庭は手入れが行き届いているのか、見る者の心に響き渡せるなにかがある。
その庭に差し掛かった時、突然……
『お主、名は?』
「誠也・・・倉田 誠也だ」
『そうか』
それ以上は聞かないのか、また静かになった。
庭には数人の人影があった。
「てりゃ!」
「まだ甘い!」
「くらえ!」
「もう少し間合いを短く」
棒などを持ちながら、一人の人物に数人の少年が挑んでいた。
『あれは、我がエタニアの将来の騎士団候補の少年兵じゃよ』
誠也の気持ちを悟ったのかフェイがそう説明した。
「ほぅ・・・良い太刀筋だな、将来強い者になりそうだ」
『・・・・』
少しの間、庭での鍛錬を見たあと誠也は散歩を再会した。
『ここが我がエタニア城の食堂だ』
食堂と言われたとこには様々な人物がいた。
人間族・エルフ族・ダークエルフ族・鬼族・天狼族・人狼族・死霊族……まさに、様々である。
『この食堂はこの城の関係者なら誰でも利用する、王族と言えど例外ではない』
「王族がか?それは冗談であろう?」
『あれを見よ』
フェイの視線の先には、少し人だかりが出来ていた。
その中心には……
「相沢か」
『言った通りであろう?』
フェイは自信たっぷりに答えてきた。
相沢の周りには沢山の人や魔族などが集まり、様々な議論・雑談をしていた。
ふと、相沢がこちらを向き手招きした。
『主が呼んでいる、いくぞ』
フェイはそう言い、誠也もそれに反対せず素直に、相沢のいるところに歩きだした。
「もう傷の具合はいいのかね?誠也殿」
「あぁ、レンと言ったかあの者の手当てが良かったのだろう、あまり痛くない」
「それは良かった、レンも喜ぶ」
「一つ聞いてもいいか?」
「なにかね?」
椅子に座りながら誠也は質問した。
「なんで俺を助けた?」
「言わなかったかね?」
はて?っと思いながら雄二は聞きなおした。
「あぁ、どうして助けた?」
「ふむ……お主が、まだ完全に聖なる心の欠片を失っていなかったからだ」
「聖なる──心の欠片?」
初めて聞く事に誠也は困惑した。
「そうだ、聖なる心の欠片はこの大陸……世界に存在する全種族が持っているモノだ、あまり数は多くないがね、お主の欠片はまだ光輝いていた。だから、助けたのだよ」
「ふむ、聖なる心の欠片とはなんなのだ?」
「聖なる心の欠片は言わば良心や聖なる力と言った方がいいかもしれん……詳しくは誰も知らぬ、だがそれを持ち、更に輝かせることが出来るものは更なる力を得ることが出来ると言われる代物だ」
「なるほど」
「城を見て回ってどう感じた?誠也殿」
「良い所と素直に感じた」
「ほぅ」
興味深そうに誠也の言葉を聴いていた雄二から、感嘆の声があがった。
「城の空気がよい、我が華音の城や城下町でもこれほど良い空気は少ない」
「そうか、まぁゆっくりされよ……傷が言えたら、祖国に帰るなり自由にするがよい」
「感謝する」
雄二は、誠也の感謝の言葉を聴き頷いたあと食堂より去った。
『お主、我が主に気に入られたようだな』
「そうなのか?」
『あぁ我が主が嬉しそうにしていた、あれほど嬉しがっている主を見るのは久々だ』
そうなんだっと思いつづ誠也も食堂を出て色んなとこを見て回った。
何日もかけて、それほどこの城は大きく複雑であった。
散歩しだして2週間たった日、誠也の傷は完全に完治し、前と同じくらいに腕も戻った。
その間、他の魔族などたちとも打ち解け合い、友と呼べるものも数多く出来た。
雄二とは酒を酌み交わし、本当に仲の良い親友と呼べるまで仲良くなった。
そして、誠也が祖国に帰る日がきた。
「そうか、やはり戻るか──祖国に…」
「あぁ……うちが心配だしな、世話になった」
「なに私も良き友に出会えた、気にするな」
「はは、じゃまたな」
「あぁまたな」
お互い握手を交わした後、誠也は祖国に向け歩きだし その姿が見えなくなるまで雄二を始めほかの魔族たちも見送っていた。
「旦那さま?」
ウォールが俺を呼んでいた、ずっと反応しなかった俺を心配しているようだった。
「あぁ……すまない、ちょっと考え事をしていた」
「そうでございますか、それでどうなさるのですか?」
「華音から抜けるべきだろうな……明らかに華音は今、おかしい所が多い」
「───」
「我が兵士たちの状況は?」
「旦那さまが製作された育成マニュアルにより、鍛え上げられた兵1千名が常時待機しております」
「そうか、兵士全員の意思は聞いてある。私の私兵500名を総動員し、兵士の家族を華音より連れ出せ、ちゃんと兵たちに説明してな」
「了解しました、戻り次第準備にかかります」
「エタニアに内密で手紙を届けさせてくれ、あとで書いておくから」
「わかりました」
誠也たちが話し合っている間に屋敷へとついた。
はてさて、これからどうなるのか───まだ、誰にもわからない
続く
第一幕 三章
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