今日もまた戦記を書きましょうか?
今日は倉田家での出来事を書いてみましょう……
魔争戦記
二章
倉田家当主 倉田 誠也は現在、自分の屋敷に向かっている馬車の中にいた。
「旦那さま?」
深く俯いたまま、黙っている誠也を見かねたのか初老の男性が声をかけた。
「あぁ…すまない、ウォール」
ウォールと呼ばれた初老の男性は、倉田家に代々仕える執事である。
「いえ、なにかございましたか?」
「女王陛下からエタニア国を攻めろと勅命が下った」
「!……しかし、あの国は!」
ウォールは、ひどくうろたえながらも誠也に聞き間違いであることを願いつつ聞き返した。
「わかっている! 私とて、あの国…相沢一族には手をだしたくない、古き盟友と剣を切り結ぶなど」
「旦那さま…」
俺がまだ一匹狼のようだった昔、まだ当主になる少し前・・・・剣を片手に世界中のあらゆる所を旅していた。
幾度もの戦い、倒した魔物の数はしれず。
その当時、誠也は魔物は人間の敵という意識があった。
そして、自分は強いのだと……自惚れていた。
その結果が、
「はぁ……はぁはぁ……クッ」
目の前の魔族に、小さな一撃を入れられぬまま誠也は満身創痍の状態になっていた。
「魔族なんぞに……魔族なんぞに…この俺が殺られるかぁ!」
「 」
誠也は、そう言いながら雄叫びを叫び続け、魔族に斬りかかる。
だが、剣は魔族にかすりもせず逆に一撃をくらい倒れた。
「ぐっ……ま……ぞ……く……め……」
魔族が、地に伏している自分にトドメを刺そうと手を振り上げたとき、魔族の後ろから何者かが声をかけた。
魔族は手を下ろしその者に道を譲る。
「(あぁ…こいつが、あの魔族の代わりに俺を殺すのか……)」
そう思いながら、誠也は意識を手放し気絶した。
魔族に道を譲られ、誠也の前に来た人物は誠也を抱えた。
「愚かなる人よ……だが、主にはまだ聖なる心のかけらを感じる……生かしてやるか」
ピチョン………ピチョン…………
どこか近くで、水滴の落ちる音が響き眼が覚めた。
「こ……ここは? グッ…」
眼を覚ました誠也は体を起こす。
だが、体に激痛が走り苦痛に顔を歪める。
誠也が激痛に耐えていると、部屋にあった扉が突然開き女が入ってきた。
「……!魔族!」
誠也はそう言うと、激痛に苦しみながらも寝ていたベッドから飛び上がり、部屋の隅に飛び引いた。
そう入ってきたのはただの女ではない、その女の頭から二本の黒い角が生えていた。
「はい、私は魔族です……ですが、貴方さまの怪我の治療と世話を命じられています」
女の言葉に、誠也はひどく驚愕した。
「なんだと?」
魔族は邪なるもの……人を殺すことに喜びを感じると教えられてきた誠也には、驚愕の言葉と言える。
「我らの主が貴方さまを拾い帰り、私にそう命じたのです」
「主?」
「はい、我らの主である【カチャ・・・・】! 相沢様!」
また扉が開き、一人の人物が入ってきた。
この魔族の女が入ってきた人物を見て驚き、相沢様といい深いお辞儀をする。
「相沢様、先ほどこの方が眼を覚ましました」
「そうか、レン……少しこの者と話がしたい、下がってくれ」
「畏まりました」
レンと呼ばれた魔族の女はまた深く礼をした後、部屋より立ち去った。
「さて、これで落ち着いて話せるな・・・倉田 誠也殿」
「!・・・貴様・・・何者だ!」
「エタニア国国王 相沢 雄二」
「な・・・に!」
エタニア国という国名は良く耳にしていた、人と魔が共存する国……我らにとって最も忌むべき国の主がここにいる。
「まぁ掛けたまえ、誠也殿」
雄二の言葉に、誠也はあまり疑問も反感ももたず、素直に近くにあった椅子に座った。
「お主は、何故魔族に手をかける?」
「決まっている、魔族は人間に仇なす敵……だから、殺してきた」
誠也は、さも当然だと言わんばかりに自信を持って答えた。
「では、レンがお主に危害を加えようとしていたか?」
次に言った雄二の言葉に誠也の自信は揺らいだ。
たしかに、あの魔族は俺の治療を施し、看病してきたと言った。
魔族なのに……魔族を殺していた俺なんかを…
「───」
「お主は間違っている……だからこそ、私の質問に答えられぬのだよ」
「間違っているだと!」
「全ての魔族が好戦的ではない、また全ての魔族が人間に手をかけているわけでもない」
たしかに、今まで会った魔族の中には人間に興味がないのか、一度も戦わずに去った者もいた。
「───」
「魔族すべてがお主を殺そうとしたわけではあるまい?」
そう、俺の命を取ろうと襲ってきた魔族は、今まで殺してきた魔族の中で2割程である。
残りは──
「そう──お主はただの魔族の子供や、友好的な魔族をも殺したのだ」
「!」
友好的な魔族!?
雄二の言葉の一つ一つが、誠也の絶対の自信を揺るがす。
「ふむ、お主はしばしここに逗留するがよい、なにかあればレンに言ってくれ」
それだけ言うと雄二は部屋をあとにし、それと変わるかのようにレンが入ってきたが、それに気づかずに誠也はまだ自問自答を繰り返していた。
「まったく……主様はここまで言わなくてもいいのに─」
そうレンが呟いていた気がする。
しばしの間、ずっと悩み考えていたが、体を襲う苦痛に俺はまた意識を失った。
続く
第一幕 二章
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