第一幕 一章
今日もまた戦記を書くとしましょうか

そう始まりはどこから・・・そうね、華音帝国の出来事から始まったと言えるかしら?











魔争戦記


一章





当時の華音帝国は、水瀬 秋子女王が統治する君主国家である。

前国王 水瀬 燈夜(ミナセ トウヤ)が原因不明の病によって、急遽亡くなりその妻である秋子に白羽の矢が立った。

当時、帝国宰相などを含める上層部は秋子が皇帝の座に就くことを決して快く思っていなかったが…その政治手腕により、徐々に周囲に認められていった。



そう…この物語は、魔族を憎む華音王国の王 秋子女王のある命令から始まったようなものだと言える。

ここ、謁見の間には女王を始め王女や宰相など重要人物が揃っていた。

そして、ある人物の登場を皆待っていた。

ほどなく扉が開き、そして門兵が入ってきた。

『倉田家当主 倉田 誠也大公爵様のご到着!』

門兵がそう大声で宣言し、すぐに貴族の正装をした男性が入ってきた。

倉田家…華音に存在する七大貴族 水瀬家・倉田家・久瀬家・川澄家・美坂家・北川家・天野家の七つの貴族の一つである

王族の水瀬家・政の倉田家・知略の久瀬家・剣の川澄家・闘の美坂家・武の北川家・術の天野家…

これが華音の上層部を纏める貴族である。


誠也は女王の眼前5メートルの所で歩みを止め片膝をつき頭を垂れた。

「倉田家当主 倉田 誠也…女王陛下の御呼びにより、参上仕りました」

「よくいらっしゃいました、誠也さん」

「ありがとうございます」

表面上は穏やかに会話が進んでいるが、今日ここに誠也が呼ばれた理由は違う。

誠也を含む倉田家は華音が進める魔族の根絶やしに表立っては言ってないが反対している一族なのだ。

その噂を聞いた華音上層部は、事の真偽を確かめる為に呼んだのだ。

「本日の召集はどのような事なのでしょうか?」

「相沢家を知っていますね?」

「エタニア国 現国王の一族でございましたでしょうか?」

誠也は頭に入っていた情報をすぐさま引っ張り出しそう返答した。

「ええ、その通りです。今回、貴方に対する命令はエタニア国…現国王以下上層部の者たちの排除です」

秋子は無理難題を言い誠也は一瞬驚愕したが、すぐに冷静になった。

「(なるほど・・・我らの思いを知り真意を確かめるつもりか)と…いうことは戦争をするおつもりですか?」

「その通りです、魔族はこの世にあってあってはならぬ存在 ましてや共存などと言って国として存在しているエタニアを華音は許すわけにはいかないのです」

「なるほど」

頷く

「そこで貴方の元にある兵団全部を持って華音先発隊としてエタニアを攻撃して貰いたいのです」

「(ふむ…)我らの兵団のみでございますか?恐れながら陛下、我が兵団は現在千名ほどしかおらずまだ再編段階です。ここは武の北川家の兵団に任せたほうが適任かと思われますが?」

「十分承知しております、ですが…準備が出来ているのは倉田家の兵団だけなのです。貴方の兵団が出撃したらすぐさまこちらの本隊も出撃させますので安心してください」

秋子はそう言うと笑顔になった…ただ、眼はひどく冷たかったが…

「(我らが敵上層部を殺せればよし・・・敗れたら敗れたで大義名分がたつと言う事か)わかりました、すぐさま準備して出撃します」

「了承、出撃は二日以内にお願いしますね」

「わかりました、ではこれにて」

そう言って誠也は立ち上がり部屋を後にした。

誠也が立ち去り扉が閉められると…

「女王陛下、よろしいのですか?」

そう言ったのは側近の一人にして川澄家の次期当主候補の一人、川澄 舞近衛団団長である。

「これで倉田家が勝つも負けるもこちらに被害はありませんよ」

「そうですか・・・」

川澄舞は、それ以上追求せずに引っ込んだ。

「(佐祐理・・・・)」

「久瀬侯爵」

「は、ここに」

そう言い、側近の集団の中から一人の男性が歩み出てきた。

「すぐに全軍団に戦闘配備…一から七軍団をエタニア国進行軍とし再編成し、残り八・十・十一・十二軍団は華音守備軍として駐留してもらいます」

「承知……で、軍団長はどの者に?」

「そうですね・・・天野家の天野 美汐 さんに任せます 久瀬家次期当主の幹久さんに補佐を任せます」

「畏まりました、すぐに配備いたします」

そうして、久瀬家現当主も退室した。




「人払いを」

秋子女王がそう言うと皆、一礼したあと退室した。

「うまくいったみたいだね」

誰もいなくなると、秋子の後ろから一つの影が現れた、誰かはわからないが…声からして男のようだ。

「ええ、これで戦争になるわ・・・人間と魔族とのね」

「ふふ、魔族め…根絶やしにしてやる」

「私の夫を憑き殺した恨み・・・魔族の根絶やしによって晴らしてあげる」

お互い少し笑いあうと…

「では、また後ほど」

「ええ」


そう答えたのを確認した影は姿を消した。









「これで貴方を殺した魔族を、根絶やしにできる準備は出来ましたよ・・・・・燈夜さん・・・」



秋子の呟きは誰にも聞かれず謁見の間の静寂に消された。









つづく