さぁ、音楽を奏でよう。
自分の命と他人の命を使った最高の音楽……戦争音楽を奏でよう!!
「ジークに回線を開け」
「了解……繋がりました」
フェイトの要求に、オペレーターは難なく答え即座に通信回線を繋げた。
「準備はどうだ?」
『ちと傷が痛むぞ』
「問題なさそうだな」
ジークの訴えを流し、フェイトは言い切った。
流されたジークはしばし口を開けたまま固まり、フェイトはその間一切モニターを見ず指示を飛ばしていた。
余りの仕打ちに、しばし呆然としたジークは正気を取り戻し叫んだ。
『……って、それだけか!!』
「それだけだが?」
『……少しは労わってください』
少々卑屈になったようだ。
「あと45秒でシャクルズの準備が終わる。出れるな?」
『おう、うちの奴らは既に準備万端さ』
「よろしい、無事な帰還を期待する」
『ブラザー……お前そんなに俺の事をしんぱ「クリス、無事に戻ってこいよ」……って、俺じゃねぇのかよ!!』
「男を心配してどうする?」
『そこはほら、この状況だと関係ないだろ?』
「クリス、そこの馬鹿を頼むな。適度に」
『クスクスッ……了解しました』
別のモニターに現れた女性が、ジークとフェイトのコントを見て笑いを堪えながら答えていた。
この艦隊では、二人のコントのような会話は日常茶飯事であるがいつ見ても面白い。
その証拠に、周りのクルー達も笑いを堪えている。
そこに一人のクルーから報告が入り、一気に雰囲気が変わった。
「シャクルズ準備完了です!」
「よろしい、モビルスーツ隊順次発進せよ」
『………』
ジーク中尉は答えず沈黙を保った。
どうやら、先ほどの事に対するささやかな抵抗らしい。
「管制、ジーク中尉のMSはカタパルトに乗せてるな?」
『はい、既に準備は出来ております』
受話器を取ったフェイトは、ジークの反応をまったく気にせずすぐに対処を始めた。
「強制射出」
『了解』
それだけ言い返事を受けると、フェイトは受話器を即座に落とす。
『強制射出?!ちょっちょっとまってぇぇ!?のあぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
フェイトの言葉を聞いたジークは、顔色を変え焦り始めたが後の祭りであった。
非情にも命令が下され管制それに即座に答えたが為に、強制的にカタパルトを操作してジークの乗るモビルスーツを射出したのだ。
通常の射出よりも強制射出は何倍も体に負担がくるのだ。
その為、強制射出はパイロットにとって敬遠されがちである。
「ジーク中尉のMS射出、シャクルズとドッキング成功」
「各艦も発進開始しました。シャクルズとドッキングした機体から順に移動開始しました」
「敵艦艇、加速しつつこちらへ進路を変更しました」
「どうやら、MS隊の行動を察知された模様です」
「各艦、敵に構わず全MS隊の発進を完了させよ。MSの発進完了後、航空隊は空母の援護に回れ」
「発進が完了した空母は下げますか?」
「予定宙域まで下げる」
「了解しました」
「ガトル防衛部隊、展開完了しました」
「よろしい、MS隊の状況は?」
「あと1分程で敵戦闘機の部隊と接触します」
「メイ、大丈夫か?」
「……ちょっと不安かな」
小さな声で、傍らに来ていたメイが答えた。
フェイトの肩に置かれたその細く小さな手は、僅かに震えていた。
「メイ、眼を見開いて良く見ておくといい。これが愚かな戦争の始まりだ」
「……うん」
落ち着かせるようにメイの手に自分の手を添えてあげると、メイは安心したのか震えが止まった。
「各自まもなく接触するぞ、準備はいいか!!」
先ほどまでのふざけた表情は既に無く。
ジークの顔には鋭い凶器のような冷たさが浮かんでいた。
『アルファーチーム準備よし!』
『パンツァーチーム準備よし!』
『イレイザーチーム準備よし!』
「いいか!訓練通りにやれば出来る!勝利と共に俺達の家に戻るぞ!!」
ジークは、自分の恐怖心と仲間の恐怖心を掻き消す為あえて大声で叫ぶ。
「「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉ!!!」」」」」」」」」」
仲間達もそれに答えるように、精一杯の声で答え速度を上げる。
「見えた!行くぞ!!」
ジーク達のモニターに無数の光が見え始めた。
そう……彼らの敵だ。
地球連邦軍サイド4守備軍に所属する戦闘機セイバーフィッシュ。
史実において一年戦争開戦当初、MSに対抗できる数少ない兵器として積極的に運用された兵器である。
「いいか、敵を戦闘機だからって侮るなよ!戦場では冷静さを無くしたやつから死んでいく!いいな!!」
「「「「了解!!」」」」
ジーク達のMSが搭乗した、モビルスーツ用長距離輸送艇【シャクルズ】。
フェイトが考案し、メイを筆頭としたツィマッド社が完成させたものだ。
これは、MSの長距離輸送以外にも使い道があった。
「よし、全機下船しろ!!」
ジークの合図で、MS隊はシャクルズから離れる。
シャクルズはそのまま敵戦闘機に向かって行き、戦闘機に接触する寸前で爆発した。
十数機のシャクルズは攻撃によって撃破されたが、それの数倍の数のシャクルズが戦闘機を巻き込んで爆発した。
「よし、死にそびれた戦闘機に引導を渡してやれ!全機散開」
ジークは状況を確認し、随時命令を飛ばしながらMSを動かす。
左手で操縦桿を操作しつつ、右手でパネルを操作し自分の直属部下を呼び出した。
「クリス、ついて来い!」
『了解』
ツヴァイのアクセルを最大まで踏み込み、バーニアの出力を上げる。
ツヴァイの能力はツダ以上の能力を有しているが、その危険性から安全装置がつけられ著しく性能を制御されている状態だ。
現状では、ツダの1.4倍程度の性能である。
「邪魔だぁぁぁ!」
艦隊直営のセイバーフィッシュが、近づいてくるジーク達に気づき攻撃を仕掛けてきた。
機首の25mm機関砲4基とブースターパック装着時にその先端に付けられた各基3基ずつ計12基のミサイルランチャーを放ち攻撃してきた。
ジークは機体を小刻みに動かし、その攻撃を避けながらマシンガンをすれ違いざまに叩きこみ一機一機確実に落として行った。
ジークを後ろから追いかけるクリスと部下達は、一定の間合いを取ってバズーカと叩きこんで爆発させたりヒートホークで戦闘機を切り裂いたりして攻撃していた。
クリスがセイバーフィッシュの攻撃網を抜けた時、後ろで巨大な火の玉が出現した。
「クリス、損害報告!」
『一機が大破しました。他は全機損傷なしです!』
「誰がやれた!」
『三番機のジー二です』
「くそ、他の部隊はどうした」
『28機がこちらに向かっています。その内の18機がシュツルム・ファウスト装備です』
「よし、俺達は頭をやる。後から来るやつらは残りをやらせろ!」
『了解!!』
全身に強大なGがかかり、骨が軋むような圧力を受けながらも速度を落とさず更に加速を上げながら進んでいく。
『隊長!まさかリミッターを!?』
「このくらいで弱音を吐いてたらフェイトのやつに笑われちまうからな!」
『でも、隊長……その体では!!』
「しっかり援護してくれよ!!」
常識を逸したその速度を上げながら、艦隊の中へと飛び込んだジーク達は戦艦の中の一番奥にいるやつに狙いを定めた。
「貴様達がこの艦隊の頭かーーー!!沈めぇぇぇーー!」
ツヴァイの左手を動かし、腰に備えられたヒートホークを取り外しマゼラン級戦艦のブリッジの横を通り抜ける。
すれ違う時にヒートホークを横に振り、ブリッジを切断した。
ブリッジは炎を上げ炎上するが、砲塔は最後の抵抗なのか攻撃を続ける。
クリスは、ジークの僅か後にその戦艦に辿り着きマシンガンで砲塔を潰した。
程なく戦場に巨大な閃光が発生し、マゼラン級戦艦は爆散した。
「次に行くぞ!」
『了解』
この戦闘で、ジオン軍は13名のパイロットと16機のモビルスーツを失い、連邦軍は戦艦・空母・戦闘機の全てを沈められ約1000名程がこの戦闘で命を失った。
圧倒的戦力差を覆したジオン軍の大勝利であった。
「ん?ジークが負傷?やられたのか?」
「いえ、それがその……」
「どうした?」
「リミッターを無断解除して攻撃を続けた結果、疲労が蓄積しマゼラン級戦艦の二隻目を撃沈した時に飛んできた破片がぶつかりその衝撃で気絶。現在、クリス少尉達の手によってこちらへと帰還してきています」
「……あの阿保がぁぁ!!」
華々しい戦果を帳消しにする間抜けなやられ方にフェイトは叫び、ブリッジにいた者達も溜息を吐いた。
「あとで鍛えなおしてやるわぁぁ!!」
フェイトの怒声が、ブリッジに響き渡っていた。
つづく
第八話
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