第六話
アレの実験は成功した。
この成功を元に生産性と強度などを向上させる再開発も始まる。
技術者達も、仕事が楽しいのか最初のやる気の無さが嘘のように嬉々として実験を繰り返している。

それから改造・再開発などを進めつつ時間は流れた。




──宇宙世紀0078 9月─




この年の終わりが迫った頃、サイド3では準備が完了しつつあった。




そう───








───これから始まる戦争の準備が。












「ブラザー」

コロニーの天気制御によって生み出された雪を見ていると後ろから声がかかった。
窓の外の景色から眼を離さず口を開いた。

「ブラザーか」

「どうしたんだ?」

「なに、あと少しで戦争が始まるんだ。多少は感傷に浸りたい気分になっていただけさ」

「それならいいが……」

なにか言い足りないのか、ジークはフェイトの顔をしばし見つめた後顔を横に振り思いを振り払った。

「で、準備のほうは?」

「MSのほうは予備を入れて58機までが準備できた。問題は何名戻ってくるかだけどな……」

ジークの言いたい事は解る。
戦争して無傷で全員が戻ってくることなんて不可能。
しかし、どうしても納得出来ないモノはある。

「戦争だ。クダラナイ戦争だがここでは必要な戦争だ、だったら勝利を掴むだけだ」

「血と恨みを糧にか?」

「俺達が望むのは戦争が終わった後の数十年の平和だ。それを勝ち取る事が出来ればいい」

「欲が無いな、相変わらず」

ジークは苦笑いを浮かべながら書類に眼を通している。

「俺は欲深いさ、ただ人とそれが違うだけの事だよ」

「まぁだからこそブラザーなんだけどな」

「どういう理由よ?それ」

「いいじゃないか」

「まあいいが……秘書官」

『はい』

机に備えられた通信機から応答があった。
俺が発掘してきた事務型で優秀な奴だ。

……男だけどな!(泣)

「しらばく誰も通すな、来客はすべて後日に回せ。それとメイ・カーウィン技術主任が来たら報告してくれ」

『わかりました』

簡潔に通信を終え、目線でジークに合図を送る。
意図を悟ったジークは部屋に鍵を掛け、ある装置の電源を入れる。
ジークが作動させたのは、盗聴防止用装置である。
二人が、これを作動させる時は重要な事を話す時だけだ。

「さて、ブラザー。状況はどうだ?」

「MSは全て新型に換装完了した。宇宙専用高機動型モビルスーツ【ツダU】及び【プロトタイプドム】を主軸にしている」

「割合は?」

「4対6と言った所だな」

「……武装は?」

「ザクマシンガンを改良し、マガジンをザクU改の時のようなマガジン仕様にすべて変更している。これは、ツダUが主装備としている。我が軍の全MSにもこの武器の正式採用が決定し、着々と換装されているモノだ」

「ドムの方は?」

「これはまだ試作先行量産型でな、製作されたMSの7割はうちの所属となった。こいつの主武装はジャイアント・バズをメインにし、ザクマシンガンをサブ武装として背部へと装着している」

「艦艇は?」

「ブラザーがSEEDを元にした発進方法を考案したのを受けて開発した奴が三機だ」

「やはり、数が少ないな」

「しょうがないさ、MSの搭載量増加による巨大化などで建造費が膨れたからな」

「で、どうなんだ?」

「MS専用宇宙空母【クラストール】 全長:341.0m、全幅:143.0m、基準排水量:18000トン、満載排水量37500トン、主機:熱核ロケット×3機推進。
 兵装はMS運用艦とした為、対防御用を主軸とし小型ミサイルランチャー×30基 多連装155mm機関砲×15基 また唯一の攻撃用としてメガ粒子砲連装4基8門が付けられている」

「初期としたら上出来だな」

「うむ、これの護衛としてガトル部隊を複数用意している。それとこれは後衛に配置するが補給部隊も準備している」

「アレの用意は?」

「準備出来ている。全機に二度分の量は確保してある」

「運用方法はちゃんと徹底させたか?」

「うちの所属のパイロットは、全員これを徹底させ試験を行い合格しているがやはり不安は残る」

「この世界では、未だ使われた事のない戦法だからな」

「それで要塞の件はどうなってんだ?俺達の」

「現在、工程の7割を消化し順調に工事は進んでいる。重要機密基地になる予定だからな、偽装などを先にやっている」

「護衛は?」

「デラーズ閣下の艦隊が護衛の任務に就いている。残りのプロトタイプドムはそちらに回してある」

「手回しのいい事で」

「なにこの時期に荒事を起こすわけにはいかないさ」

「確かに」

「それと、人員の増員がようやく解消された」

「ほぅ?」

「若年層を中心に精神分析試験などをパスした約1000名が私の指揮下に入る」

「何名生き残るかな?」

「戦争終結までに半分残ればいいと見ている」

「半分か……」

「ジオンは物資不足が深刻だからな、しばらくは物資が足りない」

「あれが開発すれば戦力不足も解消されるな」

「そうだな」

話に一区切りついた時、机の通信機から音が鳴り響いた。
フェイトはすぐに通信機のスイッチを入れる。

「なんだ?」

『メイ・カーウィン技術主任が参りました』

「通してくれ」

フェイトは眼でジークに合図を送る。
ジークは、すぐに装置の電源を落とすと部屋の鍵を開ける。
鍵を開けるとすぐにメイが室内と入ってきた。

「いらっしゃい、メイ」

フェイトはメイが入ってくるのを見ると表情を和らげる。
メイもフェイトの優しい顔を見て笑顔で返事をする。

「フェイト!用意が出来たよ!」

「遂に出来たか」

「でも、ちょっと強力にしすぎたかもしれないんだ」

「分析はどうなっているんだ?」

「現状のジオン正式採用MS【ザク】は手も足も出ないよ。テストパイロット搭乗での実験をやったけど聞く?」

「聞こう」

フェイトとジークはソファーへと座り、メイはモニターの前へと立った。
部屋の明かりが落とされ、モニターの電源が入り一つのデータが表示される。

「フェイトの考案を元にツダをベースに開発したモビルスーツ【ツヴァイ】が今日完成しました。」

MSの全体簡易図面が表示され、メイはその箇所毎に説明を始めた。

「基本動力はツダの動力を改良したものを使用しています。出力はザクの二倍に成りましたがその分の負荷がすべて機体ではなくパイロットの負担となります」

「つまり、並のパイロットでは使用不能か」

「うん、これまでにこれを機動させたテストパイロットの内完璧に動かせたのは2名のみ、残りは全員負傷もしくは衝撃に耐えられず気絶しました」

「さすがにカスタマイズされた機体は違うか、武装は?」

「高機動戦闘を主軸にしている為、バズーカを外し改良したマシンガンを用意しました。左腕には、丸型のシールドを装着しています。シールド内面にヒートサーベルを2つ用意しています」

「十分だ」

「あのこれって誰が乗るんですか?まだ聞いてなかったけど……」

「そういや誰が乗るんだ?俺も聞いてないぞ?ブラザー」

「……ん?言ってなかったか?お前が乗るんだブラザー」

「そうか、俺が乗るのか……」

「え?それだけなんですか、ジークさん」

「へ?……ってなにぃぃぃぃ?!俺が乗るのかよ?!」

「そう言ったろ、その為に今日まで過密にトレーニングをやらせてきたんじゃないか」

「あれって護身用じゃなかったのかよ!!」

ジークは仕事の合間や休日をほぼ全て使用し、身体強化の為のトレーニングを行っていた。
ジークは当初、このトレーニングの必要性を護身用と聞いていたので渋々やっていたのだ。
完璧にフェイトの手の上で踊っていた事になる。

「それだけならMSを使用した訓練なんて必要ないだろ?」

「そりゃ俺だって疑問に思っていたが……」

「諦めて実践テストを受けろ。メイ、ブラザーを好きなように料理してやれ」

「え!いいの!」

「データの為だ、存分に使ってやれ」

「ありがとう!フェイトはやっぱり話が分かるね!」

メイがそう言い終えるとほぼ同時に、部屋に数名の兵士が入って来る。

「ジーク中尉を訓練区まで連れて行け。丁重にな、逃がさないようにご同行願え」

「「「はっ!!」」」

「謀ったな、フェイトぉぉぉぉぉ!!」

恨み言を述べながらも容赦なくジークを連行して行った。
さながらその様子は処刑場に連行される囚人のような姿だった。




「メイ、あいつを頼む。あいつが生き残れるようにMSを完璧にしてくれ」

「わかってるよ。でも、フェイトも生き残らないとね?」

「承知している。メイ、あいつの訓練が終わったらあいつと一緒に我が家においで……美味しい料理を用意しておくよ」

「うん!楽しみにしてる。じゃ、行ってくるね!」

笑顔を浮かべたまま、メイは部屋を去った。
静かになった部屋でフェイトは再び外の景色を眺めながらそっと息を吐いた。







「なにを迷っている、自分の道は自分で決めたのだろう……フェイト・クライン」

なにか決意を確認するように呟いたフェイトの言葉は、誰にも聞かれることなく消えた。












つづく