第五話
コンペは史実通り【ツダ】の敗北で終わった。
これによって、ギレン閣下はザクの正式採用を決定し量産体制に入った。
フェイトは、秘密裏に行動を始めた。

「ツダが敗北し、ツィマッド社は追い込まれましたな」

「ジオニック社はザクの正式採用が決まり、飛躍的に伸びています」

司令室の窓から外を眺めながら、フェイトはリットの報告を受けていた。

「ツィマッド社と協議がしたい。早急にアポを取れるか?」

「明日の午後に会談の席を用意しています」

「手が早いな」

「以前より言われていましたので」

「そうか、基地の防衛はどうなっている?」

「ギレン閣下より賜った歩兵300名が常時基地の守備についています。現在までに侵入者など84名を逮捕しました」

「内容は?」

「単なる不審者が21名・ジオン内の密偵が49名・所属不明の密偵が24名です」

「所属不明?」

「吐かせる前に自殺しました」

「……連邦だろうな」

「情報が漏れていると?」

「恐らくな……ギレン閣下に報告して憲兵と共に内偵してくれ」

「わかりました。それと物資の件ですが……徐々に不足し始めています」

「原因は?」

「キシリア閣下の横槍と思われます」

「確定情報ではないようだな?」

「申し訳ありません、尻尾が掴めませんので」

「物資の件はこちらでどうにか手筈を整える」

「はい、それでは失礼します」

リットが退室するのと入れ替わりに一人の少女が入ってきた。

「フェイト!」

「やぁメイ、MSの方はどうだい?」

少女の名は【メイ・カーウィン】ジオン軍所属技師顔負けの技師である。
僅か10歳の技師主任だ。

「ザクの解析は始まっているよ。数日もあれば全部の解析が終わる予定」

「そうか、例のやつは?」

「小型化は出来なかったけど試作機が出来たよ。三日後の午後に実践テストをやる予定になってる」

「お疲れ様、メイ。疲れてないかい?」

「大丈夫だよ!まだまだやれる!」

「あっはっは、でも無茶はいけないよ?体を壊すなんてするもんじゃないさ」

「は〜い」

メイは笑顔を浮かべソファーへと座った。
フェイトも司令席の椅子から対面のソファーへと座る。

「秘書官、飲み物を頼む。私は珈琲と……「紅茶で」紅茶を用意してくれ。お菓子も添えてね」

『畏まりました』

通信を終えたフェイトは笑顔を浮かべ、メイの話を楽しく聞いた。

「やっぱり、フェイトって凄いね」

「どうしたんだ?いきなり」

「いきなり家に来たと思ったら協力を取り付けるなんて」

「その事か……あれは実際難しい事じゃないよ。ただ周りが煩いから誰もやらなかっただけさ」

カーウィン家は、ダイクン派として知られる名家だったが、デギン・ザビが政権を手中にすると少しずつ衰退し始めていた。
そこでフェイトが手を差し伸べたのだ。
フェイトに協力するという条件の下で、ギレン閣下の傘下へと入った。
これによって各分野からカーウィン家は息を吹き返しつつある。
無論、ジオンに直接協力するのではなくフェイトをメインに協力しているのである。
カーウィン家とギレン閣下の協力の下に着々と準備は進んでいた。

「で、例のやつはどうなんだ?」

「小型MSの件?」

「そうそれ」

「もう少しかかるかな〜まだまだ情報が少ないんだよ」

「だろうな、これは実践データなどを収集しなければ難しいだろうし」

「そうだね。でも、小型なんて必要なの?」

「小型にすれば幅は広がる。無論小型にすることで欠点も出てくるけれど利点の方が大きい」

「んーでもやっぱり時間がかかるよ?」

「中盤くらいまでに開発の目処がついたらいい」

「開戦後ってことでいいの?」

「いいよ、それと渡してあるリストのやつの進行状況も後で報告してね」

「わかったよ」

「今日は仕事が終わったら家に来ると良い、ジークも戻ってくる予定だからな。私の手料理で良かったら一緒に食べないかい?」

「行く行く!仕事は6時くらいに終わる予定だからそれから向かうね」

「楽しみにしてるよ」

秘書官が飲み物とお菓子を持ってきたあと二人は少しだけ雑談を楽しみ、それぞれの仕事場へと戻っていった。







「お初にお眼に掛かります。ジオン軍大尉フェイト・クラインと申します」

「ご丁寧に、私はツィマッド社社長 エルトラン・ヒューラーと言います。それで?何用ですかな?」

見るからに高そうなソファーに座ったエルトランは、若輩のフェイトの事を厳しい視線で見ていた。
先日のコンペでジオニック社に大敗し、現在騒乱の最中にジオンからのコンタクトの打診があった。
快く受けて会ってみれば若造。
エルトランの機嫌が悪くなるのもわかる。

「この度の目的は貴社の協力要請です」

「協力ですか?」

「えぇ、貴方の会社の技術力を私に貸して頂きたいのです」

「ふむ、では見返りはなんですかな?」

企業を纏める立場であるエルトランは、厳しい視線のまま聞いた。
利益が生まれそうにないのであれば協力しても意味がないからだ。

「見返りはギレン閣下への口聞きとジオニック社とのライセンス契約です」

「本当ですか?!」

ソファーから立ち上がり、驚愕した表情のままフェイトに確認してきた。
ツィマッド社からすれば、この二つの見返りは十分過ぎるくらいの利益を生むことになるからだ。

「本当です。これがギレン閣下からの書状とジオニック社との契約書類です」

フェイトは、エルトランにその二つを渡した。
渡されたエルトランはフェイトに断りを入れ、食い入るようにその二つを隅々まで見始めた。
中身を見たエルトランは徐々にその顔を驚愕から笑顔へと変えて行き、最後には円満の笑顔でこちらへと視線を戻した。

「それで技術提供と言うことですが……具体的にはどのような?」

「はい、我々はジオニック社などとは別に軍内部においてMSの独自開発を行う予定です」

「独自開発ですか?」

「無論、ザクから派生させているやつが今の主流になるでしょうがそれとも違うまったく独自の開発も行っております」

「完全独自にですか?それはかなり時間がかかりますよ?」

「別に構いません。それの完成は開戦から数ヵ月後くらいまでに量産開始が出来れば良いのです」

「なるほど、そこで我らとの協力要請ですか」

「その通りです。現在の主流はこれからザクへと変わっていくでしょう。しかし、我々はそれで満足する気はありません。開戦すればいくつかのMSが連邦などに鹵獲されるのは明白です。戦争中は技術開発を常に進歩させなければなりません」

「それでしたらジオニック社と協力すればよろしいのではないのですか?」

「確かにその手もありますが、我々はツィマッド社と協力したいのです。それではご不満ですか?」

「いえいえ、その様なことはございませんが……」

「現在、ギレン閣下の承諾を得てサイド3から少しほど離れた宙域ある惑星。連邦のソロモンの半分くらいの大きさですが、それを我々の拠点とする予定です」

「そのような重要な事柄を私に言っても?」

「構いません、洩らすようなら消えていただくだけですから」

きっぱりと言ったフェイトにエルトランは恐怖した。
彼がそう言った時の顔は、怖いくらいの笑顔だったからだ。

「後日、我々の基地にいらしてください。その時に細部までお話致しましょう」

「わかりました、なるべく早く行けるよう手筈を整えておきます」

「では、失礼いたします」

笑顔のまま社長室よりフェイトが立ち去ったのを確認したエルトランは、人知れず大きな溜息をついた。

「……ただの若造なんてとんでもないな、あれは恐ろしい人物だ。恐らくギレン閣下と同等かそれ以上の人物になる」

エルトランの思いは半分当たり半分外れた。









ツィマッド社から基地へと戻る車の中で、フェイトとジークは話し込んでいた。

「二人を獲得するのには骨が折れたぞ?」

「知ってる。で?どうなんだ?」

「一人の方は軍に入る前にスカウト出来た。現在は戦闘機で訓練して貰ってる」

「そうか、で?」

「もう一人はまだ学生だったからな、アルバイト形式でやってもらってる。アイツの腕はいいな、さすがハロを作っただけの事はあるね」

「将来に期待しとくか」

「そうしとけ」

ジークは、笑いながらタバコを口に咥え素早く火をつける。
煙を吸い込み僅かに味わった後、窓の外へと吐き出す。

「ジーク、メイの前で吸うなよ?」

「わかってるよ。その辺の事考えてるから今吸ってるんだろ?」

「わかってるならいい」

「苦労性で心配性だな」

「昔からさ」

「で、これで力がまた増えたが……そろそろやばいぞ?」

「キシリアだろう?」

「そうだ、ガルマ・ドズル・ギレンは今のとこ問題ないが……あの女狐が動きだすぞ?」

「既に動いてるよ、内外問わずね」

「基地での事か?」

「それ以外でもね」

「物資か」

「既に横槍は入れられつつある。無論、牽制やその他の行動はやっているがなんせ規模が違う」

当然のことだが、新参の俺達よりも昔からいるキシリアの派閥の方が力も強く手も広い。
どちらにしても現在は力が足りず後手後手に回り易い。

「しばしはギレン閣下の力を借りるさ。それにデラーズ閣下もおもろいおっちゃんだったしな〜酒飲んだら凄かったぞ〜」

「ぶっ!?なにやっとんじゃブラザー!?」

フェイトの発言が効いたのか、ジークは噴出しハンドルを思いっきり切った。

「ブラザー!!前っ!前見ろーーー!!」

「え?うわちゃぁぁぁ〜!!!」

正面衝突しかかりながらもジークはハンドルを巧く操作しスレスレだったが回避してみせた。

「ブラザーちゃんとしろよ……」

「すまん」

「まぁ実際のとこさ、俺は年上の人と仲良くなり易いんよ」

「まぁ精神がねぇ」

「死にたい?」

「滅相もない」

フェイトは笑顔で黒光りする銃をジークの頭に押し付けながら囁いた。
ジークは冷や汗を流しながら即座に遠慮する。

「明日はアレの稼動実験だろう?」

「成功したら面白い事になるね〜開戦が」

「あくどい事になりそうだな」

「言わない約束でしょ?」

「いつしたよそんな約束を」

「今?」

「疑問系かい」

フェイトとジークの漫才は基地に到着するまで続いた。
観客がいなかったせいか二人は基地に到着すると盛大に溜息を吐いた。

それから、それぞれの仕事場に戻った二人は書類に囲まれ帰宅出来たのは日付が変わった後だったとか……。





つづく