第四話
数日後、ギレン閣下より正式に許可がおりた。

それからは凄かったの一言だ。

事態は急展開をし始めたからだ。

俺は更に数日後、ギレン閣下から直接呼び出され正式に任命されすぐに行動を始める事になった。

まず未だ卒業はしてなかったが行動は密かに始まった。

まず、資金面は株取引などやギレン閣下よりの援助を活用し、これで第一局面までの資金の確保は出来る予定だ。

次に技術者は当初は出向と言う形で始まった。

だが、これこそがかなり問題であった。

腕こそ一流ではあるものの主流から隔離されている者達が出向されてきたのだ。
フェイトは、サイド3の一角に用意された小規模な軍事基地の会議室に全員を集めた。

「諸君、君達には今後私の指揮の下にMS開発に着手してもらう」

「それはジオニックとかとの共同開発ですか?」

技術者の一人が手を上げ疑問をぶつけてくる。

「いや、初期はザクなどの既存兵器の改良などを行うが時期をみて独自のモビルスーツを作ってもらう」

「独自開発?!」

フェイトの言葉に技術者達はざわめいた。
それは主流から離れ一つの流れを作ると言う事に相違ないからだ。

「しかし、可能なのですか?」

「可能だ、君達に開発してもらう最初の機体は一つだ。多目的行動可能汎用モビルスーツを製作してもらう」

「多目的行動可能汎用ですか?」

「そうだ、地上・宇宙など様々な状況に適応可能なモビルスーツを作ってくれ」

「それならばザクで良いのではないですか?」

「ザクはあれで問題があるからな、詳しい事は後日決めて行く事になるがね」

「人員はどうなるのですか?」

「私の裁量に任されている。必要な人材はこちらで確保するさ」

「他から邪魔されませんかね?」

「あ〜それか、問題ないよ」

フェイトは言い切り、笑顔を浮かべた。
技術者達はそれに疑問を覚え、その中の一人が勇気を出して聞いてみた。

「それは、どういう事ですか?」

「邪魔する奴は消えてもらうだけだからさ」

技術者達は戦慄した。
彼の言っている言葉もそうだが、彼のその顔が物語っていると言えよう。

「それと、他にも開発して貰う物があるから後に渡す資料にも眼を通しておくように」

それだけ言い切るとフェイトは部屋を後にし、彼の仲間が技術者達に資料を渡しそれを見た彼らが驚愕するのは些細な事だった。






会議室から出たフェイトは、自分の執務室となる基地司令室へと向かった。
少し遅れて両サイドに二人の青年が続く。
ジークともう一人はギレンから派遣された者である。
司令室に着いたフェイトはデスクに備えられた見るからに高級そうな椅子に体重を預けた。

「で、現在の状況は?」

フェイトはジークから貰った珈琲を一口飲み、ギレンから派遣された青年──名前は【リット・クラーシュ】──に聞いた。
青年は姿勢を正し、はっきりと項目別に述べ始める。

「現在、ギレン閣下が率いて秘密裏に軍備の増強が続けられております。
 それと、一ヵ月後になるんですがMSのコンペが開催される予定です」

「コンペ?……あぁ、ザクとツダね」

「知っていらしたのですか?」

「情報は生命線ですから」

フェイトは、僅かに笑みを浮かべながら珈琲を口にした。
珈琲の苦味が口に広がり、カフェインが頭を覚醒させる。
フェイトは次を促し、気を取り戻したリットは続きを述べる。

「続いて人員の件ですが……思わしくありません」

「でしょうねぇ、うちは成り上がりも甚だしいですから」

別の派閥から見ればこちらは新参の派閥になりかねない危ない輩にしか見えない。
それ故に、他派閥からの引き抜きが難航しているのだ。

「その為に別口からの人員確保を指示しましたよね?」

「はい、旧ダイクン派やサイド3外での人員発掘を開始しております。
 サイド3内部の事は数日中に完了しますが……外部に関しては数ヶ月はかかると予想されます」

「構いません、内部を優先して解決してください」

「了解しました」

「それと、この一族とコンタクトを取りたいので手筈を整えてください」

「?……ちょっと失礼……かなり手間がかかりますよ?」

フェイトから紙を受け取ったリットは紙に書かれた詳細情報を見たその顔を青くした。

「手間がかかっても構いません。必要ですから早急に渡りをつけて下さい」

「……承知しました」

恐怖で青ざめたのではない、これから始まる書類などの手続きの多さに青ざめていたのだ。

「それと追加でジオン傘下の主要企業以外の中小企業と連絡をつけてください。
 特に、軍事転用可能な精密機械製作に長けた企業を中心にね」

「わかりました、早急に準備致します。失礼致します」

リットは書類を携え、足早に部屋を後にした。
ジークと二人っきりになったフェイトは姿勢を崩し、タバコを咥えながら笑みを浮かべた。

「なんとも目まぐるしい展開だねぇ?ブラザー」

「そうだな、僅か数日でここまで急展開したんだ。大したもんだよ、ブラザー」

ジークもタバコに火を点け、煙を口から吐く。

「で、どうするんだ?」

「リットが言っていたコンペでツダはザクに大敗し、その後のMS開発競争に出遅れる結果になる」

「つまり、ブラザーはそれを利用しようって言うのか?」

「そう言う事」

フェイトが言う事はこうだ。
一ヵ月後に控えたコンペで、ツィマッド社が開発したMS【ツダ】とジオニック社が開発したMS【ザク】との模擬戦闘が行われる。
史実では、ツダがザクに負けその後のMS開発競争にツィマッド社が大幅に出遅れる結果となる。
そこで、我々が手を回す。
我々は未だ始発状況だがギレン派閥の一員と一緒であり、その為そこから手を回せばツィマッド社との間で技術提携が出来る。
無論、ジオニック社などとも付き合っていく事になるがね。
そして、MS統合計画を早期実現出来る用に手筈を整えるのも目標の一つだ。
そう、既に俺達がこの世界に存在している時点で史実は変化しているのだ。

「ブラザー、この二名を引き込んでくれ。予算は問わない正攻法でな」

「この二人は……わかった」

「秘密裏にな、連邦になんぞ察知されるなよ?その家族にも契約を結ぶまでは感づかれるな」

「わかってる」

「経費はいくらかかってもいい、絶対にその二人を引き込んでくれ」

「未来の為だろう?」

「そうだ」

「で、さっきの件どういう事だ?」

「あの一族の事か?」

「そうだ」

「あの一族は主流から外されているが力は未だ衰えていない」

「それにあの子もいるからだろう?」

「言うなっての」

「でも、まだなぁ?」

「言うなっての」

「へいへい」

「ブラザー、これにチケットは入れてある。すぐさま飛んでくれ」

「了解、準備してくる」

「頼む」

ジークはフェイトから封筒を受け取り、中身を確認すると一度こちらを向き笑顔を浮かべた後部屋を後にした。
誰もいなくなった執務室で、フェイトは深く溜息をついた。

「生き残る術は用意し始めた。だが、帰る術が見つからない……」

自分とブラザー二人の力で調べているが欠片さえ掴めない。
二人は、それを知ってもそこまで落ち込まなかった。
情報があるとは思っていなかったからだ。

「ならば生き抜いてやる。例え後世に汚名を着ようとも生き抗ってやる」

フェイトは、人知れず宇宙に誓った。









続く