第三話
それから半日後、営倉を出された俺達はすぐさま自分達の寮に戻り作戦をつめ始めた。

やはり、現段階の中核は権力だ。

そこで学校では元々仲が良かったガルマとつるみ仲を深め、志津馬……もといフェイトは、様々なコネや情報を使いギレンの居場所を突き止め接触した。

ある屋敷の一室は、現在非常に重たい空気に支配されていた。
部屋の主が椅子に座り、来客者を睨んでいるからだ。

「で、貴様は誰だ?ドズルが是非会ってくれと言っていたが」

「貴重な時間を頂き、有難う御座います。私はフェイト・クラインと言う士官学校在籍の仕官候補生です。お見知りおきをギレン閣下」

ギレンに敬礼したままフェイトは答えた。

「ふむ、その仕官候補生がなんの用だ?」

「ギレン閣下に言いたい事がございます」

「言ってみろ」

「ブリティッシュ作戦は失敗しますよ」

フェイトの言葉に、ギレンは態度を変えずただ視線だけを動かしフェイトの眼を見ていた。

「……なんの事だ?」

「既存コロニーの一つに核パルスエンジンを取り付け、地球連邦の総司令部【ジャブロー】に攻撃をしかける作戦です。
 現在はまだ企画段階の筈ですけれどね、その作戦は失敗しますよ」

「……どこで知った?」

「私は知ったんじゃないんですよ。知っているんです」

「ほぅ……」

「閣下は前世を信じますか?」

「否定はせん」

「前世で私はこのジオンの戦争を経験しております。それも第三者の場所から」

「……どういう事だ?」

「私は当事者ではありませんが、これから始まる戦争の大部分は知っており弱点も知っております」

「なるほどな……なにが望みだ?」

ギレンは一度言葉を切ると今度はフェイトに聞いてきた。
見返りはなにが欲しいのだ?っと……。

「私をギレン閣下の直属にして頂きたいのです。独自の裁量権と独自の部隊を頂けるでしょうか?
 さすれば私は、ギレン閣下の手足となりましょう」

「それだけか?」

ギレンはフェイトの提案に疑問を投げかける。
ギレン本人からすればそれだけでは使うメリットがあまりないからだ。

「あと数年程で始まる戦争に対し、私は以降様々な提案をさせて欲しいのです。モビルスーツ・人員・作戦立案などです。
 ギレン閣下はそれを吟味して頂き、閣下が必要と思われる事を採用していただければよろしいです。
 ただ、閣下には勝利を目指して頂き派閥を忘れて頂きたいのです」

「───手始めになにをする?」

「現在、ジオニック社とツィマッド社などが開発しているMSの規格を全て統一すべきです。
 これによって、機体の整備性などが上がり様々な恩恵を得る事になります。
 それと、MSや兵器開発に関する技術者などや生産工場などを用意していただけますでしょうか?」

「確かにな、そうすれば機体の活動状況も変わるだろう。後者に関してはすぐに用意してもいい。他には?」

「人員ですが……既存コロニーを使用するよりも小型コロニーもしくは小惑星を利用したほうがまだ成功率があがると思われます」

「小型の……と、言うことは建造中のサイド7の事か?」

「左様です。無論開戦当初はそこまで出来ませんので小惑星がよろしいかと思います。
 第二次が必要になる場合にサイド7を使用すべきです」

「作戦立案に関しては?」

「こればかりは当初目標に関して問題はありません」

「ならば後と言うことだな?」

「はい、ジオン軍は地球連邦に対し圧倒的に人員が不足しております。他コロニーを壊滅させず味方にした場合でも総数は負けています
 ならば無駄を省く事が必要です」

ギレンはフェイトの言葉にしばし眼を閉じ考えに没頭した。

「いいだろう、貴官を私直属にする」

「ありがとうございます」

「士官学校を卒業した後、少佐の地位を与える」

「閣下、私の部下に関してですが私が選別をしてもよろしいでしょうか?」

「全てか?」

「はい、私直轄になる部下はすべてです」

「いいだろう」

「派閥など気にしませんがよろしいですか?」

「構わん、好きにやれ。だが、無用の混乱は起こすな」

「了解致しました」

そう言って姿勢を正し、敬礼を持って感謝の意をギレンに示す。

「ジオニックとツィマッドには渡りをつけよう。工房に関してもな」

「ありがとうございます、無論無駄な介入などは致しません結果をご期待ください」

「わかった、後日連絡をつける」

「では、これにて」

そう言ってフェイトはまた影に隠れるように屋敷を立ち去った。

「………」

立ち去ったフェイトがいた場所を見ていたギレンはふいに電話の受話器を取った。

「……私だ、フェイト・クライン士官候補生について調査しろ。そうだ全てだ」

「───」

「任せたぞ」

「───」

二言三言の後、ギレンは受話器を戻した。






「何者だ?あの男」














「はぁ?!ギレン閣下に直談判しただと?!」

「おぅ」

気軽に答えたフェイトに対し、ジークは頭を抱えた。

「そりゃ接触はする予定だが早すぎだろ?!」

「まぁ予定より数ヶ月は早いな」

「どんな手段を使ったんだ?」

「ガルマ経由でドズル閣下に取り次いで貰い、接触した」

「結構な賭けだな」

「今頃、俺の経歴とか身辺調査を行わせてる筈だ」

「で、予定通り通らせたんだろ?権限とか」

フェイトはポケットからタバコを取り出し、一本を口に咥え火をつけた。

「ふぅぅ──まあな、あとはMSに関与して少しでも性能を上げる事だがな」

「難しいんじゃねぇの?」

「そんな事わかっているさ、若造である俺のような奴の言う事を簡単に聞くぐらいなら派閥争いなんかしてないさ」

確かに、ジオンの独立が主目的であり願いなのなら余計な派閥争いなどせずに一致団結している筈だ。
だが、結局の所派閥争いはあり戦争にも負けてしまった……史実ならば。



───この世界には俺達がいるのだから。。。


「ブラザー……スムーズに進めば俺は独自の裁量権を持つ一大勢力を築く事が出来る」

フェイトはタバコを口に咥え、火をつけ煙を吸い込む。

「ふぅぅ……で、俺は工房を使ってザクを基盤にしてギラ・ドーガを開発する予定だ」

「ギラ・ドーガってあの?」

煙の味を楽しんだフェイトは煙を吐き出す。

「そうだ、逆襲の中において序盤から終盤まで使用された兵器だ。たしかにザクに変わる性能があるとも思えんしな、だがあの運用率の高さはいい」

「ブラザーがやりたいのは区別か?」

「そうだ、確かに俺達はギレン閣下の派閥に属するが……それは、ギレン派閥に同一になることはない」

「その為のギラ・ドーガか?」

「そう、当初は既存兵器の改良などを行うが徐々に独自の兵器開発を行う」

「資材はどうするんだ?」

「当初は軍から賄う予定だ、それ以降は独自に調達する」

「で、俺になにをさせたいんだ?」

「卒業したら俺はギレン閣下に引き抜かれる予定だ。そしたら俺がブラザーを引き抜く、その時にリストを渡すからその人物をスカウトしてくれ」

「勧誘か?」

「そうだ、基本的にブラザーには情報戦略部門を任せる」

「俺に?」

「そう、まぁ詳しい事はこれから詰めていくけどな」

「……楽しそうだな」

フェイトは笑っていた。
これから始まる物語を思って、愉快に笑っていた。

「楽しいさ、これから始まる物語を俺達が介入して変えていくんだからな」

「そうだな」



フェイトは棚の隠し棚から秘蔵の酒を取り出し、二つのグラスに注いだ。
二つのグラスの一つをジークに渡し、一気に煽った。

「「これからも頼むぜブラザー」」

二人は笑う。


これからの未来を思って笑いあう。








つづく