第二話
眼が覚めるとそこは見知らぬ牢屋でした。
「……は?」
飲みすぎ、痛む頭を抑えながら眼を覚まし周囲を見渡した志津馬は素っ頓狂な声を上げた。
「ん……どうした?ブラザー?」
隣で寝ていたであろう我がブラザーの声がして、そちらを振り向く。
すると……。
「えーと……ブラザー?」
「なんだよ、俺がどうした?ブラザー」
「いや、ブラザーの姿を見たら誰だってそう疑問に思う筈だぞ?」
「あ?どう言う……そういうブラザーもじゃねぇか」
「なにぃ?!」
そこで俺たちは、二人とも姿が変わっている事に気がついた。
「まてまてまてまてーーなんだよこの状況、まるで憑依かトリップモノの展開じゃねぇか!!」
「なんだ?その憑依とかトリップモノってのは?」
「……小説でのストーリー展開の一種でいいのかな?
憑依ってのが原作キャラとかに現実世界の人間が乗り移り物語を進めるってやつだ。
トリップってのが現実世界の人間とかが別の世界に突然移動して物語が始まるってやつだ」
「……まじか?」
「───記憶を呼んでみ、思い出そうとするようにしたらわかる筈だ。……通常なら」
「冗談だ……ろ?」
記憶が浮かんできたのか歯切れが悪かった。
「冗談じゃねぇっぽいぞ……なんか思い出してきたし」
「……俺もだ」
「情報を分析しようや」
「そうだな」
俺達は意外に冷静に考えてる事に少し笑った。
ベッドに向かい合うように座った俺たちは、現状を把握する為に記憶を思い出しそれを元に調べ始めた。
「俺の名前が【フェイト クライン】で……現在、士官学校に通う21歳」
「で、俺の名前が【ジーク ヴュラード】で、ブラザーと同じ20歳か」
「俺たちは酒場で酒を飲んでいて乱闘騒ぎを起こし、営倉に入れられて今に至る。……これで合ってるか?」
「こっちと同じだな」
「で、メインはやっぱこれだろ……この世界」
「だよな、この世界は……」
「「初代ガンダムの時代」」
「しかも、まだ開戦前だし……開戦まであと6年ってとこか?」
「いいね〜いいね〜これでこそって感じだ。しかし、なんで後輩にガルマやシャアがいるんだ?」
「ご都合主義じゃないのか?」
「ご都合主義か」
「ご都合主義だ」
「そうか」
「で、話を戻すけど」
少し落ち込んだ場の雰囲気を戻す為に、無理やり話を元に戻す。
「んー最初のブリティッシュ作戦はどうよ?」
「下策だがやらないとねぇ……それに、下手に弄れるほどの力なんてないぞ?」
「派閥はどうするよ?」
「王道ならギレン派かな、キシリアは嫌だぞ?」
「ならそれでいくか。だが、ギレンはキレ者だぞ?簡単に説得は無理だと思うが……まぁそこはこの体の出番か」
「どういう事だ?」
「こいつは情報屋として色々活動していたらしい」
「なるほど、それで鍛えた体を使って潜入か」
「そうだ、直接話せば引き入れる事も不可能じゃないな。ただ頭の回転が速いからね、下手なやり方は即BADEND直行だろう」
「ふむ、そこは任せる」
「それにギレン直属だけじゃ駄目だな、ガルマが同期にいるなら取り入る必要もある。それに、兵器工廠とか情報局にも手を伸ばしておかないとな。
「それはブラザーに任せる。俺は味方を増やすよ」
「所でブラザー。話は変わるが……」
「なんだ?」
「ギレン派になる事で一つ確認しておく」
「?」
志津馬は急に真顔になり、零の顔を見ながら口を開いた。
「ブラザーは大量殺人者になる覚悟はあるか?」
「……」
志津馬のその言葉に、零は言葉を失った。
零もその事を気にし、そしてあえて避けていた事だ。
「どうだ?覚悟はあるのか?ないのか?」
「ブラザーはどうなんだ?」
「俺か?俺は元々気にしていない」
「殺人者に対してか?」
「そうだ、他人が幾ら死のうが身近の奴を守れればそれでいい。ここに身近な奴と言ったらブラザーくらいだがな」
「冷めてるな。いや、前からか」
「俺の性格は知ってるだろう?」
「仲間の為ならなんでもする奴だったな」
「そういう事だ」
志津馬は当然と言う感じに頷いた。
「で、どうなんだ?覚悟は?」
「戻れる方法もわかんねぇし、いいぜ!乗った!!」
「よし!それでこそブラザーだ!」
お互いが笑顔になり拳を合わせる。
そこで、志津馬がポツリと漏らす。
「まぁ方法がないわけじゃないがね」
「───はぁ?!」
「確証はないけど教えて欲しい?」
「うむ」
零が頷き、それを確認した志津馬は渋々口を開く。
「今のとこ二つかな……まず、俺たちをここに連れて来た存在がいるとしてだ。そいつの目的を達成されたら戻れる。これが第一」
「第一か、だがありえそうだな」
「だろ?次が俺たちが死ねば戻れる方法。これが第二……その場合、俺たちは戻っても死人のままっぽいがな」
「そいつは嫌だな」
「それに指示があったわけじゃねぇしな。だったら好きなようにやるさ、どういう結末であれな」
「そうだな、怖さもあるが楽しみでもあるな」
二人は子供のように無邪気に笑う。
確かに二人にこの現状は嬉しすぎるだろう。
日常を退屈と日頃から思っていた二人だ。
ならば、刺激溢れるこの世界を満喫すべきだろう。
二人は、これから始まる血に塗れた道を思い……静かに笑いあった。
つづく
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