第十話
連邦艦隊の奇襲攻撃から数日後、修理を終えたフェイト率いる艦隊は一路作戦宙域へと向かった。
地球へと落下を始めたコロニーが、崩壊を始めたと極秘情報が入ってきたからだ。
それを聞いたフェイトは、あまり驚かなかった。
史実において、それは起こった事であり予想範囲内だったからだ。

「よし、我々はこのままサイド5へと向かう」

「戦列に加わるのですか?」

「いや、今回はドズル中将の後詰となることが決まっている。それに……我々は邪魔に思われているからな」

「でしょうね、我々は異質すぎますし」

若干27歳にしてこの艦隊の総司令を任され独自の裁量権を与えられているのだ。
フェイトの事を良く知らない者が妬むのは当然の事である。

「簡単にはいかないものだな……」

飲み物を口にしながら、少し疲れたようにフェイトは呟いた。
ここ連日、フェイトの仕事量はこの艦隊の中で群を抜いていた。
既に、軍医からのストップも掛かりかけている状態だ。

「それで、捕虜は口を割ったか?」

「いえ、拿捕された艦はあの艦隊の頭だったようで……取調べを致しましたが口を割りませんでした」

「……割らせたんだろう?」

「はい、自白剤を投与して無理やり吐かせました」

「それで?」

「はい、尋問の結果……連邦上層部がここで待機の指示を出し、ここに現れるであろう我が艦隊を撃てとのことだったそうです」

「……決まりだな」

「はい、我が艦隊にスパイがいます」

「で、検討はついたのか?」

フェイトはもう一人の男に聞いた。
この男こそ、前にフェイトによって内部調査を任せられた男であった。

「……はい、通信記録・ハッチ開閉記録などを隅々にチェックして容疑者を割り出しました」

「誰だ?」

「第一分艦隊第四番護衛艦【ディリス】の次席通信士チュール・ファブレ少尉です」

「ファブレ?……あいつか」

フェイトの前のモニターにその人物の詳細データが表示された。
この人物は、キシリアの横槍で強制的に入れられてきた人物の一人だった。

「あのくそばばあが……で、吐いたのか?」

「いえ、我々が身柄を押さえようと自室へ向かいましたが……死亡しておりました」

「ちっ口封じのつもりか……確か他にも同様に派遣されたやつがいたな?」

「はい、我が艦隊内部に計6名がいます」

「……消せ」

「了解」

男は無表情のまま部屋を後にした。
そのまま部下を引き連れ、彼は艦隊各所へと散って行った。

「リット、捕虜はどうしている?」

「一般兵はやはり困惑しているようです。調べました所大半はコロニー出身者のようですが……」

「一般兵で従順なものはそのまま残せ、残りはすべて本国へと送れ」

「了解しました」

リットも退室し、部屋にはフェイトただ一人が残された。

「通信士、私は休息を取る。なにかあれば起こせ」

『了解』

フェイトはそのまま椅子に腰掛け、眼を閉じつつ今回の事を思っていた。

「これも……運命の悪戯とでも言うのか」

フェイトは、そのまま椅子に座ったまま眠りについた。



深い深い……眠りへと……。











そんなフェイトを電子音が目覚めさせた。

「ん……通信か……」

フェイトは机に向かい、通信機のスイッチを入れる。

「私だ」

モニターの電源が入り、通信士の姿が映し出された。

『司令、予定宙域に辿り着きました』

「そうか、私はどのくらい寝ていた?」

『約18時間程です』

「そうか、ブリッジへ行く」

『了解しました』

通信が切れ、モニターの電源が落ちるのを確認するとすぐにフェイトは立ち上がる。

「俺達は戦争をしているのだ……それを否定する気はない」

フェイトはなにかを振り払うように頭を横に振り、ブリッジへと向かうべく部屋より立ち去った。










ブリッジへと到着したフェイトを、ブリッジにいたクルーやリット・ジーク・メイが敬礼をもって迎えた。
フェイトも返すように敬礼をし、司令席へと座った。
それを確認した部下達は敬礼をやめ、各々の仕事へと再び力を注ぐ。

「で、状況は?」

「はい、報告します」

リットがフェイトの呼びかけに答え、手に持ったファイルを順次読み上げる。

「現状までに、各艦の応急修理は完了しています。しかし、一部の艦は損傷程度が激しく基地へと戻し本格的に修理する必要があります」

「戦闘に支障は?」

「今回は後方配置ですのでそれほどまでは……」

「ならそのままだ、今作戦終了後に基地へと帰還する。物資は足りているな?」

「はい、つい先ほど連絡が入りあと90分後に補給艦と合流する予定です」

「よし、MSの整備状況は?メイ」

「はい、全艦に搭載されたモビルスーツの整備は5時間前に完了。現在は、各モビルスーツごとに微調整中です」

「よろしい、我々は今現在ドズル中将の指揮下に入っているがもしもの場合には独自行動に移る。もっとも……そのもしもが来るのは少ないだろうがな……」

もしもの場合……それは、ドズル中将率いる艦隊が壊滅の危機に直面した場合である。
それまでは、我々は後方での警戒待機でしかないのだ。

「ジーク、体は治ったのか?」

「まだだ」

「そうか、では訓練の件だが……身体強化のやつを増やすからやれ」

「いや、だからまだ治ってないと……」

「私だ、ジーク中尉をトレーニングルームへ」

『了解』

ジークの反論を聞き流し、フェイトはどこかと連絡を取っていた。
それに気づいたジークは、なぜか青褪め止めようとするが時すでに遅く。
受話器を置くのとほぼ同時に、ブリッジに数名の兵士が入ってきた。

「連れて行け、徹底的にしごいてやれ」

「了解しました!……やれ」

「「はっ!」」

兵士の一人が指示を出すと残りの者達がジークを羽交い絞めにし、ブリッジから引き摺りながらどこかへと連れて行った。

「疲労は少なめに、訓練は長めに」

「承知しております。では」

「フェイト……ちょっと厳しすぎるような」

「メイ、一緒に訓練受けてみる?」

「いえ、マッタクモンダイナイデスネ」

フェイトのとびきりの笑顔を見たメイは、背筋を正しカタコトで返事を返した。
メイと同様に、フェイトのその顔を見たものは同様の態度を示し冷や汗を流していた。

「まぁ一応訓練には軍医がついてますから心配無用ですよ。ん?始まりましたか」

フェイトの言葉に弾かれるように、メイ達は一斉に戦場である宙域に視線を注いだ。
















一方、訓練の為に連れ出されたジークは現在逃走していた。
もの凄いスピードで艦内の通路を疾走していた。
なぜなら、その後ろから狩人が追ってきていたからだ。

「ジーク中尉!待ちなさ〜い!」

「待てってんならその訓練銃を下ろしやがれ!!」

ブラザーの苦難はまだしばし続く。








つづく